2022-08-01

暮らしを大切に~服部史乃さん

お店に並ぶヨーロッパの古いものたち

シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。

パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。

第7回は、コロナ禍のただなかに念願の花屋「et puis(エピュイ)」をオープンした、服部史乃さんです。

花が繋いでくれた

2021年9月、三重県津市にお花屋さん et puis がオープンしました。フランス語で「それから」という意味の店名には、お店を訪れてくれた人のそれからの人生が彩り豊かなものになりますように、との思いを込めたそうです。

季節の花をそろえて

オーナーの服部さんは、もとは保育士として働いていました。その後、ヨーロッパで出会った蚤の市に魅せられ、アンティークやブロカントを扱うネットショップをオープンさせました。ヨーロッパに定期的に買い付けに行き、骨董市などにも出店するなどフリーで活動していましたが、数年後にはインテリアショップのチーフとして就職。インテリアの仕事は、それまでしていたアンティークやブロカントを扱った経験が生きたそうですが、その中で花飾りをお客様に求められたことをきっかけに、花の存在が服部さんのなかで大きくなっていきました。お客様の要望に応えるためにフラワーショップのレッスンに通い、生花と触れ合うなかでどんどん花の魅力にはまっていったという服部さん。自分のお店を持ちたいという漠然とした夢は、いつしか「花屋」という具体的な目標になっていきました。

私が服部さんと初めてお会いしたのは、お店のオープンを控えた数か月前、「パリスタイルフラワーを学びたい」とレッスンにお越し下さったことからでした。実は私も三重県出身。お話するうちに母の実家が服部さんのご自宅のすぐ近所ということが分かったりと、そんな地元つながりからも親しみを感じたのですが、何よりも素敵だなと思ったのは服部さんのお人柄。こちらの伝えることに真摯に耳を傾け、小さなことにも「ありがとうございます!」と丁寧にお礼をいう。謙虚な姿勢は、レッスンで同席した方の紹介で、活躍されているイラストレーターさんにshopロゴを描いてもらうというご縁にもつながったのでした。

オープンからもうすぐ一年、ようやく私もお店を訪れることができました。コロナ禍でのスタートは不安もあったそうですが、定期的に来てくださるお客様も増えてきて、少しずつお店の成長を感じているとのこと。そして保育士の経験を活かしてプログラムを組んだ、こだわりの子供向けレッスンもスタートさせています。彼女の想いがつまった素敵な店内を眺めながら、お店を持つまでの経緯やキッズレッスンにこめた想いなど、たっぷり伺ってきました!

人生は自分で作るもの

好きがつまったディスプレイ

店内にはお花と共にヨーロッパの古いものがちりばめられていて、まるで宝探しをするような楽しさも感じられます。まずはそういったアンティークやブロカントとの出会いからお店のオープンまでの道のりを聞いてみました。

加納(以下K):もともとは保育士さんとして働いていたという事ですが、アンティークやブロカントに興味をもったきっかけは何だったんでしょう?

服部さん(以下H):大学生の時に、大阪でフランス雑貨を扱うカフェをやっている女性を知って、すごく素敵だなと思ったのが最初のきっかけです。自分でフランスまで買い付けに行ってお店をやっている女性というのが、その当時の私にはすごく衝撃で。そんな選択もあるんだ、と。でも就職も決まっていて、何より保育士になりたかったのですぐにどうこうすることはなかったんですが、働きながら休みには旅行でヨーロッパに行くようになり、そこで蚤の市と出会って、すごく好きだな、私もお店やりたいなって徐々に思い始めました。

K:その後、保育士は辞めて、まずアンティークやブロカントを扱うウェブショップを立ち上げたそうですね。

H:なりたくて就いた保育士の仕事でしたが、日本の幼児教育に対して疑問というか、私のやりたいことと少し違うなって思い始めて。その頃に、よくヨーロッパ旅行に行っていたんですね。そこで出会う方たちは自分の人生をすごく大事にしてると感じて、自分はこれでいいのかなと。私はこうありたい、と思ってそれに向かって行動している人はめちゃくちゃ努力してる。一回きりの人生だし、ちゃんと挑戦したい、自分でいろんな想いをかたちにしていきたい。これから歳を重ねていくと考えた時、自分で人生を作っていかないとダメだな、自分で作っていくものなんだなと思いました。

K:旅先での経験から色々考えたんですね。

H:人生の充実度を考えたというか。それで思い切って仕事を辞めました。大好きなアンティーク雑貨のお店をやりたいと思ったんですが、地方ではアンティークやブロカントだけで店を構えるっていうのは現実的には厳しいかなと。それでまずはウェブショップを始めて、定期的に骨董市にも出店していました。カフェでアルバイトもしながら、ヨーロッパに買い付けに行って。買い付けで一か月とか長期で休ませてもらったりして、融通をきかせてくれてありがたかったです。まず3年、と決めてやっていく中で骨董市でも毎回買ってくれるお客様もできてきました。でもやっぱり将来への不安も芽生えてきて、4年目に入ったところでいったん腰を落ち着けようと考えて、住宅会社のインテリアショップ部門に就職しました。2店舗のチーフとして仕入れも任せてもらって。ウェブショップを運営していた経験がここで活きました。

K:インテリアショップではアンティークではなく現行品を扱っていたんですよね?

H:そうです。働きながらインテリアの勉強もさせてもらって。住宅会社だったので、建てた家に合ったインテリアを提案する仕事もあり、そこでもともと興味があった「暮らし」というものをさらに意識し始めました。お花も昔から好きで、暮らしの中の花というのを仕事を通じてより考えるようにもなって。お店ではドライフラワーを扱っていたんですが、それでブーケをつくって欲しいといった依頼も増えてきて、必要に迫られて受け始めたフラワーレッスンで生花に改めて向き合うようになり、そこから一気に花にはまってしまったという感じです。

K:なるほど~。生花にはまって、それで花屋をやりたいと思い始めた?

H:そうですね。お花がますます好きになってずっと花をやりたいと思ったときに、自分がお花屋さんになったら毎日花に触れていられるなと思ったんです笑。もともとお店をやりたいと考えたのは、自分がヨーロッパが好きで、旅行に行けなくても身近にヨーロッパの魅力を感じてもらえる場所を作りたいなって思ったからなんですね。それでこれまではアンティークを売るという選択肢しかなかったのが、お花っていうものが出てきて。そうや、お花も一緒にやればいいやん!って。お店をやるならアンティーク+何か、と考えていたので。お店もやれるし、仕事にしたら花にもいっぱい触れられる、そういう理由で花屋を考え始めました。

K:たしかにアンティークだけでは、きっとそんなに買いに来てはもらえないですよね。それに私も花にハマった一人なので良くわかりますけど、お花ってとにかくいいですよね笑。風邪気味でも花にふれているといつの間にか元気になったりして。でも開店したのはコロナ禍真っ只中でしたよね。それについては不安はなかったですか?

H:私自身はコロナで花のチカラをより感じていて。会社もリモートワークになって、一人暮らしだったのでとても辛かったんですが、その時にすごく花に救われたんです。暮らしに花があるっていいな、心の潤いというか花があるだけで全然違うと実感して。あとタイミングもありました。お店をやるにはまず場所探しですが、これだと思う物件に出会うまでには3年くらいかかると聞いてたんですね。それでまず登録だけでもしようと不動産屋さんに行き、そうしたら2か月後にはこの物件を紹介してもらえたんです。もともと喫茶店だったんですが、大家さんが花好きで、子供向け教室の構想なんかも話したら「そういう未来に自分の資産を使ってもらえるならぜひやってもらいたい」と、改装までして下さったんです。開業に向けて動き始めたら一気に流れが来た感じでした。コロナが明けてから、とも考えていたんですが、こうなったら今始めよう!と。

K:実際に開店してどうでしたか?

H:むしろ花を飾る方が増えたんじゃないかな、という印象です。今まで飾ったことなかったけど家時間が長くなって花を飾ってみようと思った、と来てくださるお客様も多くて。コロナの影響は、だからそこまでなかったというかむしろ良かったかも?と思うくらいです笑。

素敵なshopロゴ

何年も夢を胸に抱き続け、様々な準備を経てついに念願のお店をオープン。まとめてしまうとすごく順風漫歩なストーリーに思えてしまいますが、そこにはたくさんの努力の積み重ねがありました。例えばヨーロッパでの仕入れ。蚤の市で買い付けてそれを販売するには、まずいつどこで蚤の市が開催されているのか調べなくてはなりません。インターネットで調べまくりました、と話していましたが、その当時見ていたサイトは現地の言葉で辞書を片手に訳していたとのこと。または現地在住の日本人の方のブログ記事から情報をひろったり、とにかく必死で調べたそうです。そして航空券を手配し、拠点を決めて宿を確保。交通の便を調べて現地に赴き、バックパックを背負って仕入れた後は、梱包して日本へ送る。ただアンティークが好き、というふわっとした気持ちだけでは出来ることではありません。情報収集能力、計画力、実行力。人柄の良さに冒頭ふれましたが、お話を伺いながら、冷静に考えて判断できる明晰さもお持ちだなあと感じました。でももちろん、根っこにあるのは情熱。et puisさんのホームページやInstagramには、アンティークや花に対する熱い思いが綴られています。旅の思い出も書かれていて、オーロラを見に北欧へいった時のお話にはバイタリティを感じ、オランダの古書店主の言葉には、まさに一期一会の出会いだと感動。ぜひ読んでみて下さい!

そうして大好きなアンティークと花のお店をオープンした服部さんには、もう一つやりたいことがありました。それは子供向けのお花教室。大学での専攻や保育士の経験を活かして組んだプログラムにはこだわりが詰まっていて、それについてもじっくりとお話を伺いました。

「個」を大切にしたい

レッスン風景。アトリエぺパンの写真は服部さんより頂きました。

K:次に子供向け教室「atelier pepin(アトリエぺパン)」について伺います。大学では保育士になる勉強をされていて、実際に保育士として働いた経験と共に学んだことも活かしてプログラムを組んでいるのでしょうか?

H:そうですね。保育科ではなくて児童福祉学科で、その中でもヨーロッパの福祉、幼児教育を専門にされている先生のゼミに入って、福祉の先進国といわれる北欧やドイツの幼児教育を勉強していました。なのでヨーロッパは幼児教育から入ったのかも。でもその時は海外にも行ったことなくて、学んではいても少し遠い世界に思っていました。その後、自分でもヨーロッパに行くようになって文化の違いを肌で感じて、そこでつながったというか。ああ、こういう幼児教育を受けた人がこういう大人になって、人格が形成されて文化が生まれるんだ、と。

K:こういうライフスタイルになるんだ、とか?

H:そう、そうです。例えばヨーロッパでは花を飾るのって当たり前のことじゃないですか。自分の暮らしを大切にしようっていう文化が好きやな、と思ってお店でも一輪から買いやすいようにしていますが、子供に対しても、小さいころからそういう教育を受けていたり生活の中で伝わって、文化、ライフスタイルができているなと。そんなことを、保育士の経験も生かして伝えていきたいなと思っています。

K:幼児期から花にふれていたらきっと大人になっても自然や花に親しむだろう、そこから暮らしを大切に思う心も育つだろう、と。そういうことを伝えたい?

H:もちろん、そういった自然に親しんだり、花を慈しむ心も育ててほしいと思っています。でも一番伝えたいのは「個」を大切にしてもらいたいという事なんです。教室のサイトにも書いてますけど、日本ではどちらかというと集団生活を重視して、同じ歳の子と同じ学年で集まって同じように進めていく教育ですよね。平均点があってそれに対しての優劣をつけたりして、集団の中の個、という感じで。それに対してヨーロッパではまず個を大切に育てられていて、精神的に自立している人がとても多いなという印象を受けたんです。日本では早期教育でIQ(Intelligence Quotient 知能指数)を重視する方も多いのかなと思いますが、ヨーロッパではEQ(Emotional Intelligence Quotient 心の知能指数、感情をコントロールして応用する能力)を幼児のうちに育むことが大切と考えられているんですね。だから小学校入学前くらいの年齢の時には、早期教育というより芸術に触れて自分を表現したり、それを周りの友達と見せ合って認め合ったり、という機会を多く設けています。アトリエぺパンでやりたいこともそれなんです。

K:確かに習い事って、純粋に好きなことをさせてあげたい気持ちはまずありつつ、上手に出来るようになって欲しいとか、何かに役立つかどうか、みたいな損得勘定もゼロではないですね笑。平均値よりも上を行って欲しいっていう気持ちも、親としては正直あります。

H:いい学校とか行けば、それはもちろん頑張りの証だしそれだけ進路の幅も広がると思うんですが、まずは「自分」をしっかりと持っていないとダメなんじゃないかと思うんです。なんていうのかな、自分でやりたいことを見つけて、それに向かって頑張れるチカラが根底にないと、どれだけ学力があっても壁にぶつかった時に乗り越えられないというか。そのチカラを育むものの一つが自己肯定感だと思うんですよ。学力についてはそれを伸ばす場所はほかに沢山あると思うんですが、私が子供たちに対して何ができるかなって考えた時に、自分を表現して自己肯定感を得られる場所を作ってあげたいなと考えました。小さい時って家族以外に幼稚園、保育園の先生くらいしか、密にかかわる大人っていないですよね。そういう立場じゃない大人に自分を受け止めてもらって、認めてもらう機会を作ること。それが将来に役立ったり、あとは他者を認めるってことにもつながると思うんです。他の子を思いやるとか肯定的な言葉をかけるとか、そういうことが当たり前にできる人に育ってくれると思うんですね。海外に行くと感じることで、精神的に自立しているからすごく楽しそうだし、相手のことも肯定できている。

K:私はわたし、あなたはあなた、みたいな心の持ちようを海外の方には感じます。いい意味で他者としっかり線引きできている人が多いというか。海外のやり方がすべて優れているわけではないと思いますが、自己肯定感については日本人は低いと言われていますよね。それはやっぱり子供の頃からの教育にも影響があると思いますか?

H:私はそうなんじゃないかなと思っています。前に働いていたのは一般的な保育園だったんですけど、出来る出来ないの能力的な部分で子供を見ることが結構あったんです。それがすごく嫌で。だからアトリエぺパンでは、その子それぞれにある良いところをちゃんと見てあげたいと思いました。少人数でのクラス編成にして、例えばあるクラスが4名だとしたら1対4ではなく1対1×4、みたいなイメージを意識しています。ひとりひとりとつながるというか、ちゃんとその子を受け止めたい。

この日の授業は玉ねぎの皮を煮だして絞り染めを

出来る出来ないで子供をみてしまう、平均と比べる。それはしてはいけないと思いながらも、親としてはつい口を出して上手くできるように頑張らせてしまうことってあるな、、とお話を聞きながらわが身を振り返って考えました。園や学校といういわば子供にとっての社会で劣等感を持たなくてもいいように、と。つい。頑張ることももちろん必要ですが、バランスがくずれると、もしかしたらかえって子供の自信を喪失させ、得意なことや好きなことを諦めさせることになるのかもしれない。いつもと異なる場所で、ちがう大人と触れ合って認めてもらえることは、子供にとって自分の好きと純粋に向き合える大切な時間なのかもしれないな、と思いました。そしてそれは、親にとっても視点を変えて我が子を見られる良いきっかけになるのでは?とも思いました。

K:じゃあレッスンでは子供たちみんな同じことをやっていても、進度がそれぞれ違ったり、かける言葉も変えているのでしょうか。今日はこれをやります、っていう共通のお題みたいなものはあるんですよね?

H:はい、例えば今日は向日葵のアレンジメントを作ります、みたいに内容は決まっています。まずはオアシス(吸水スポンジ)への挿し方とか基本的なやり方、気を付けて欲しい注意点などは伝えますが、あとは自由です。向日葵を使う、というある程度の枠は与えつつその中ではめっちゃ自由にさせます。合わせるお花はお店から自由に選んでいいよ、とか。そうすると子供たちも、そのお題に対して考えるんですよね、どう自分を表現しよう?って。

K:大人向けのレッスンだと、そういう風に最低限の説明だけして、形とか自由に表現してください、さあどうぞ!ってやると、たいていの方はえ!?どうしよう?ってなると思うんです。子供たちはどうですか?

H:入会前には必ず体験レッスンを受けてもらうんですが、例えばすでに5歳にして先生や親のいう事をちゃんと聞いてその通りにやることが正しい、って思っている子は、やっぱりやり方や見本がないと困るんですね。どうしよう?って。それだとなかなかご縁がつながらないことも多いですが、自由と聞いてやった!と目を輝かせて自分のやりたいことを始める子が入会してくれます。性格とか、得手不得手もあるから良い悪いではないですけどね。

K:親の思いもありますよね。コンセプトに共感できる親御さんなら子供を入れたいと思うだろうし、逆にせっかく習うならフラワーアレンジメントがきっちり作れるようになって欲しい、と考える方は入会させないでしょうね。

H:そうだと思います。私も体験レッスンの時に説明しますが、作り方は伝えるけど、法則的なところできれいに作るやり方を伝える教室ではないです、とお伝えしています。入会の時にお渡しするプリントにも、上達するとは一切書いてないんです。

K:なるほど~。でも教えるほうは難しいですね。上達とは違う満足を与えてあげないといけないわけで。

H:教室の始まりと最後がすごく大事だなと思っていて、最初は、今日はこういうことをしますっていう枠をきちんと示して、その中で自由にして、最後に一人ずつ個々でしっかり褒める。そうすると子供はすごく満足します。そして私が褒めるだけじゃなくて、子供たち同士がお互いに作品を見せ合って、ここが好き、ここを工夫してみた、ということをその子の言葉で発表する時間も設けています。

K:いいですね!そういう機会ってあまりないですよね。自分の思いを言葉にしてみんなの前で発表するっていうのは。

H:そうなんですよ、自分のこだわりとかを人に話すことってあんまりないですよね。でも子供たちはすごく思いを込めて作っているし、すごく楽しそうにしてるし、それを自分で発表してもらって分かち合って、必ず褒めてあげたい。最初はやっぱり全然話せなかったんです。だから私が1対1で聞き取って代弁していたんですが、毎回褒められているとだんだん自信もついてきて。そうやって自分で自分のことを認められると今度はまわりの子にも興味を持ち始めて、ここが可愛いねとか、私はここが好きとか褒め合ったり、年上の子のやることを真似してやってみたりするようになるんです。そういう、お互いを認め合う関係がクラスの中にできているのを感じられて、それはすごく大事なことだなって思っています。

K:ほんとにそれは素敵なことだと思います。言葉にすることは大人でも難しい時がありますし、そういう訓練じゃないですけど、小さなころから言葉で表現することに慣れていると、これからすごく役立つんじゃないかなと思います。気持ちを上手く伝えられると落ち着きますよね。小さい子のけんかですぐに手が出るのは思いを言葉に出来ないからで。他者に目を向けさせるのもすごくいいですよね。例えば幼稚園の作品展なんかは展示されているのを各自で見学するのが一般的だと思いますが、それだとなかなか他の子の作品について考えたりしないと思うんですよね。年上の子のまねをするというお話もありましたが、クラスは年齢で揃えているわけではないんですね?

H:対象年齢は満4歳から10歳で、今は一番上のお子さんが10歳、あとは4~7歳のお子さんが多いのですが、クラスも同じで内容も変えていません。でも年中さんと小4の子が同じことをやってもそれぞれのやり方で愉しんでいます。作品を作るのは自分を表現することなので、小さい子は感性の赴くままに作りますけど、小学生は大人顔負けのものを作ってくれたり。

K:その子なりの、それまでの経験みたいなものも反映されるんでしょうね。10歳の子であっても、例えば大人に教えるように技術的なことを伝えたりはせず、自由にさせているのでしょうか?

H:いや、それは伝えてますね、年齢によって作品との向き合い方も違うので。幼稚園くらいだと思うがままに自分を表現することを愉しんでいて、一年生くらいからはこうした方が綺麗かなと考え始めて、工夫をし始めます。感性のままというよりは、しっかりと見て、考えて取り組んでいる感じがします。

K:ロジカルに考えるようになってくる?

H:そうですね、考えてますね。4年生にもなるとめちゃくちゃ考えてるし、試しているし。だから大きな子が早く作れるわけでもなくて、ハサミも上手く使えなくてゆっくり作る年中さんと同じくらい時間がかかります。あと4年生の子は質問してくれます。私はこの花のこういうところが可愛いと思うから目立たせたいけど、どうやったらいいですか?とか。そういう質問にはしっかり答えます。でも、その子なりの美しさを表現してもらいたいので、アドバイスはしますがお手本を示すことはしません。そうやって伝えたことはちゃんと覚えていてくれて、一度伝えたことはすぐ定着するし、アレンジメントもどんどん表現が豊かになっていきますね。

K:花を通じてそういう変化がみられるのはすごく面白いですね。今、年中さんの子が小4まで続けてくれた時、どんなふうに成長しているんでしょうね。楽しみですね!

H:ほんと楽しみです。でも子供ってめちゃくちゃ繊細やな、とも思っています。大人はやっぱりなんていうか大人で、私が何気なく言った言葉もそんなに重く受け止めないですけど、子供たちは小さなことにも反応して、影響されるので。その分、責任も感じますけどやりがいもあります。しっかりやらんとな、と思ってます!

集中しているのが伝わります

学んだ理論や経験をもとに考えられたコンセプトや指導法は、親目線からも信頼できて、幼児教育のプロという安心感があります。なにより、子供たちファーストの姿勢には愛と情熱が感じられますし、自己肯定感を育むという、生きるための根本のチカラを重視することに共感を覚えました。アトリエぺパンでは教室でのレッスンのほかに課外授業もあるそうで、この夏は、三重県立美術館で開催中の「いわさきちひろ展」に行き、学芸員さんのツアー後にいわさきさんが用いたにじみ絵の技法で絵を描くワークショップをしたり、子供向けのアートイベントに出展して、教室に通う子供たちと一日お花屋さんをしたりするとのこと。すごく楽しそうじゃないですか?うちの子も小さかったら通わせたいなと思ってしまいました!そしてまた、アイデアを形にする服部さんの実行力に脱帽。これからどんな展開をしていくのか、ますます楽しみなアトリエぺパンです。

子供向け教室と共に、服部さんが力を入れていきたいことが「暮らしに彩りを添える」お手伝いがしたいという事。具体的にはどのような展開を考えているのでしょう?お店づくりのこだわりや今後についても伺いました。

自分に見せたい景色を作る

花を飾りやすい花器も揃えて

K:今度はお店について伺います。もともと「暮らし」というものに興味があって、インテリアショップでの勤務経験からさらにその気持ちは強まったとのことでしたが、最初にアンティークのウェブショップを始めたのも、蚤の市で、昔の人が暮らしの中で使っていたものに出会って惹かれたからなんでしょうか。希少な骨董品というよりは、暮らしの道具や雑貨などがお好きなのかなという印象です。

H:そうですね、ブロカントのほうが好きかもしれません。わかりやすいようにアンティークって言ってますけど。暮らしが透けて見えるというか、そういうものに魅力を感じます。

注:厳密にいうと、アンティークは主に100年以上の時を経た芸術、美術、工芸品のこと。ブロカントは古い雑貨類全般をさします。

K:使い込まれた感じとか良いですよね。私も古いものが好きですが、どんな人が使っていたのかな~なんて考えてしまいます。例えば食器類、陶磁器なども作られた窯や年代の見分け方などの知識も必要なのかな、と思うのですが、そういう事も調べたりするんですよね。

H:そうですね、そういう世界も面白いなって思いますが、アンティークであってもコレクター的に集めるのではなくて暮らしの中で実際に使いたいんですね。ヨーロッパの方って古いものも躊躇なく使うじゃないですか、そういう中でお花なんかも楽しんで。丁寧に暮らす、ってまとめてしまうと簡単ですけど、直しながらずっと使い続けていくところとか、そういうライフスタイル全般が素敵だなと思っています。古いものも新しいものも区別せず、良いと思うものを素直に取り入れるところとか。そこにはその人なりのこだわりがあって、そういうこだわりを持って自分の暮らしを彩ること、そういう暮らしの連続がすごくいいな、素敵な人生だなと思うんです。

K:こだわりを持って、日々を丁寧に暮らしていく。憧れですよね。

H:インテリアを勉強した時に、「インテリアは何のためにあるのか」って質問されたんですよ。難しいですよね。先生の答えは「インテリアは、自分に見せたい景色を作るためのもの」。ああそうか、例えば旅行で世界遺産に行くのはその景色の中に身を置きたいから行くけど、日々の暮らしも一緒やな、自分が見たい、身を置きたいように景色を整えるってことだと思って。そうやって自分のスタイルを持って暮らしを作っていくのが素敵やと思いました。そこにお気に入りの雑貨やお花があれば最高ですよね。どうやって飾ったらいいかとか、気軽に相談してもらえたら嬉しいです。

K:暮らしの中で飾ってもらいたい花を並べているという事ですが、例えばお店や企業の定期装花とかのお仕事なんかは受けないんですか?

H:お話しを頂いたこともあるんですが、まだ開店してから一年経っていなくて自分でもやり方を試行錯誤している段階で、定期的な装花というのは今のところやっていないです。まずはお店のスタイルを確立させたいというか。その人の暮らし、その人の人生に寄り添う花というのが自分のやりたいことだと感じているので、誕生日など記念日をお祝いするギフトとか、ウェディングの花なんかは積極的にお受けしたいです。それで経験を積んで、自分の表現の幅が広がって出来ることも増えて、et puisらしさをしっかり出せるようになってきたら装花や撮影の仕事にも挑戦してみたいです。

K:エピュイさんらしい感じで、お任せしますって言ってもらえると嬉しいですよね!そうやって自分らしさを確立していくためにもしっかりお店を回して継続していくことが大事だと思うんですが、例えば来店数を増やすためとか何か工夫していることはありますか?

H:お正月前や卒業などのセレモニーも多い3月など、お花の需要が高い時期にはお店を開けていたらお客様も来てくださる感じですけど、それ以外の月は自分から働きかけて来店するきっかけを作らないと、と考えています。

K:広告を打ったりするというよりは、なにかイベントを企画して人を呼んだり?

H:そうですね、作家さんとコラボしたり、ワークショップを開催したり。あとはチューリップの時期に珍しい色々な種類をそろえてチューリップ祭りをやってみたりもしました。これは結構人気で、たくさんの方に足を運んで頂くきっかけになりました。

K:愛知もそうですけど三重も車社会で、通りすがりにふらっと入ってくれるとか、あんまり期待できないですよね。

H:SNS でのご来店もそうですが、最近は口コミで足を運んで下さる方も多くて。今後はヨーロッパのものをさらに扱って、よりヨーロッパを感じて頂けるお店にしていきたいと思っています!

どの花がいいかな?と悩むのも楽しい

これまでお話を伺った皆さんに共通することですが、一見お花とは関係なさそうなものでも、それまでの経験全てをほんとうに上手く活かしているなと感じます。服部さんも、これまでやってきた幼児教育、アンティークやインテリア、そして花を上手く結びつけてフル活用されている。ご自身でも「お店も早くやりたいと思っていましたけど、20代の頃にやらなくて良かったと思っています。今なんとかなっているのはインテリアショップの経験が大きいと思いますし、焦って始めなくて良かったです。出来る状態になったらタイミングはちゃんと来るんやなと思いました」と話してみえました。タイミングは人それぞれ。いつやって来るかわからないチャンスの神様の前髪をつかめるかは、その人の心の持ちようと行動が決めることなのです。

人の毎日に寄り添う花、こどもたちに未来を生きるチカラを伝える教室。きっと長く地域で愛されるお店になっていくことでしょう。お忙しい中、とても素敵なお話をありがとうございました!

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