土と対話し道を開く〜ファームたかおさん
シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。
パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。
第9回は、無農薬での花作りなどこれまでにないチャレンジを続ける花農家、ファームたかおさんです。
花摘み会で
4月、念願だったファームたかおさんの「スイートピー花摘み会」に参加するため、新倉敷の駅に降り立ちました。名古屋からは新幹線で2時間弱、集合した参加者の皆さんでタクシーに分乗し農園へ。運転手さんも道に迷うほど入り組んだ細い道の奥、花や果物のハウスが並ぶ船穂地区にファームたかおさんはあります。周りは山がちな傾斜の土地、それを利用した斜面に立つハウスというのが船穂の特徴の一つだそうで、農園の周りは春の息吹で緑に色づき始め、鳥が囀り、とても美しい静かな山里という印象でした。イベントについてはひとつ前のコラムにもリポートしましたが、出荷の終わったスイートピーたちはすでに支柱も外されていて畝に奔放に伸びのびとしており、そしてまだまだたくさんの花を咲かせていて花畑のよう。よくみると畝の合間にはスイートピーではない草花もちらほら、なんだか自由な空気を感じました。もちろん、それは出荷が終わりほっと一息の季節ということもあったのでしょうが、切花を出荷する農場というと他の植物は一切、生えないように管理しているように思っていたので、ちょっと不思議に感じたのも事実。その理由は今回のインタビューで明らかに。異業種から転じて花農家になり、慣行農法とは異なるアプローチでスイートピーを栽培するお二人、広い視野が感じられるとても興味深いお話を伺うことができました!
オリジナル100%を目指して
花摘み会の時にぜひ!とお願いしていたインタビュー。春の作業もひと段落した6月中旬、時間をとっていただき実現。作業の合間の休憩時間にオンラインで、スイートピーもすでに引き抜き茶色になったハウスの様子も画面越しに見せていただきました。今は来シーズンのための種をとり、土を作り始めているとのこと。そこから農園の仕事についてお話を伺っていきました。
加納(以下K):まず、今の時期はどんなお仕事をされているのか教えていただけますか?
あゆみさん(以下A):スイートピーの来季の栽培に必要な量の種を確保して、土づくりをちょうど始めるところです。あとはハーブも少し育てていて、そちらの計画も立てつつ、という感じです。
K:今は一年の始まりというか、リセットして新たに始める時期なんですね。
A:そうですね。でも他の植物は毎年、苗を買って、それを植えて育てて出荷して、というものも多いと思うんですが、スイートピーは種をとって来シーズンまた咲かせることができるので、実はずっと循環していくものなんです。それが大きな特徴ですね。
K:じゃあ、最初に種を買ってしまえば、永久に循環させて作り続けることができる?
A:基本的にはそうですが、種の中にはその品種を作った方に権利金を払うもの、いわば苗的な育て方をするものもあります。でもうちは100%、自分達の品種を育てたいと思っていて、育種をしながら品種登録をして、オリジナルをずっと作り続けています。
K:アルジさんのブログを読ませていただいたのですが、2022年の春にはJAから脱退したと書かれていました。それはJAにいると独自の品種を育てることが自由にできないからですか?種を必ず買う必要があるとか、そういったルールがあるのでしょうか。
A:種を買わなくてはいけない、ということはなかったです。所属している時から私たちのオリジナル品種を作っていました。でも白やピンクなどのスタンダード品種は船穂オリジナル品種を使っていて、JA脱会と同時に使えなくなったこともあり、独立1年目の今季はすでに持っているオリジナル品種、特に赤系を多く作って出荷していました。それと並行して栽培面積の半分で白などもオリジナルで作るための育種を行っていて、まだフル稼働できない、という状態の独立初年度でした。なので本番は2年目から、来季からが100%オリジナルを栽培して出荷するという、新しい出発の年になります。
K:なるほど!栽培品種に関しては割と自由なんですね。ではどうして脱退に踏み切ったのですか?
A:2017年から無農薬への挑戦を始めたのですが、数年をかけてやっとの思いで確立しました。JAを抜けたのはそれを農園の個性として活かしていくべきだと考えたからです。例えば、東京のお客さんから「たかおさんのところの無農薬栽培の白が欲しい」と言ってもらっても、船穂オリジナル品種の場合は他の農家さんももちろん作っているので、うちのスイートピーと区別がつかなくなってしまうんですね。船穂のスイートピーとして出すわけで、うちのものだけ別というわけにはいかない。そういった、無農薬がいいと言ってくれるお客さんからの声が徐々に増えてきたというのは後押しになりました。
K:よりブランド化していこうと思ったわけですね。
A:そうですね。農薬を使わない、というのはとても大きな独自性だと思うので。せっかくならそれを最大限に生かしていきたいですね。
大きな決断、JAを抜けるという選択をしたのは「無農薬栽培」という独自性をさらにアピールしていくためでした。しかし無農薬栽培というのは本当に大変です。我が家も元農家で畑があり、家族のための野菜を無農薬で作っていますが、虫はつくし、雑草はあっという間に畝を覆うくらいに生えてくるし、かなり手をかけねばならない栽培方法なんです。家庭菜園の小さな面積でも大変なのに、生業として生計を立てるための農業でその手間をかけるのは軽い気持ちではできないことです。お二人はどうして無農薬栽培に切り替えようと思ったのか、その辺りのことも伺いました。
無農薬への挑戦
K:これもアルジさんのブログからですが、農薬を使わなくなったら土がふかふかに柔らかくなったと書かれていましたね。我が家も無農薬で畑をやっていますが、耕したところを歩くとググッと長靴が沈むくらいに確かに柔らかいなと。でも畑は食べるものを育てるのでこだわってやっていますし、無農薬野菜というのは一定の需要もあると思うんですが、花で、あえて大変な無農薬栽培に切り替えようと思ったきっかけは何かあるんでしょうか?
A:初めから、よし、無農薬でやるぞ!と意気込んで始めたわけではなくて。きっかけというか始まりは、ひとシーズンが終わった時、また次のシーズンも続けて育てるために土に入れていた土壌殺菌剤という薬です。
アルジさん(以下ア) :土の中にいる虫をやっつけるとか、菌を殺すとか、いわゆる農薬ですね。これが物凄く体に悪いんですよ。
K:SNSで、土に入れる農薬で体の調子が悪くなる、といった内容の投稿を見た記憶があります。
A:毎年、8月の暑い最中の仕事なんですけど、防護服着てガスマスクみたいなのはめて、ゴーグルして。完全防備で土壌殺菌剤を撒くんですね。めちゃくちゃ暑いし、強い薬だし、自分達も嫌で。なるべく農薬って使わないほうがいいよね、と、まずはその殺菌剤を撒くのを止めることから始めたんです。そうしたら体調の変化を感じ始めました。彼は元々、喘息持ちで吸引をしなくてはいけないくらい酷かったんですが、農薬をやめたら吸引の頻度がどんどん減っていって、呼吸が楽になって。あと、私は実はスイートピーに対してのアレルギーがあったんですよ。
K:え!?そうなんですか?
A:そうなんです、昔から豆乳アレルギーがあり、そこから一般的なスギ花粉症よりもひどい植物に対するアレルギーが出て、イネ科のものにも反応するようになって。イネ科って一年を通して時期が長くて、だんだんマスクを外せない期間が長くなっていったんですが、最後にはスイートピーに対しても。出荷のために花を束ねるときに切り口から出る汁が手についたりするとものすごくかぶれるようになってしまって、花粉が出る春にはくしゃみが本当に止まらなくなってアナフィラキシーかというくらいに酷くて、3月には農園に来られないようになってしまいました。
K:スイートピーの出荷で忙しい時期ですよね、それは大変だ。。
A:そうなんですよ、目もパンパンに腫れて。一生続けられる仕事じゃないなと思い始めていて、彼もそんな私を見てちょっとこの仕事から離れた方がいいかもね、と言うくらい。でも農薬を使わなくなって時間が経つにつれて、私のその症状がだんだんと出なくなっていったんです。まずスイートピーの汁にかぶれなくなり、花粉が飛ぶ時期に農園に来てもくしゃみも出なくなって、気がついたらイネ科も大丈夫になっていて。雑草ってイネ科のものが多いんですが、マスクなしでも草刈りできるようになって。しかも豆乳も飲めるようになったんですよ!
K:それはすごいですね!アレルギーって現代病とも言われてますけど、やっぱり化学物質が原因なのかな、という印象をあらためて強めるようなお話ですね。
A:ハーブティーを飲んだりして、相乗効果的に体質改善ができたのもあると思います。でも一番大きな要因は、農薬を使わなくなったことなんじゃないか、と考えています。
ア:まあでも、体質改善が目的で始めたわけではないので、結果的にという感じです。自分達の健康はもちろん一番大事なことだけど、ちょっと今の日本の農薬の使い方が無頓着すぎるんじゃないかなという思いもあって。日本って結構、農薬を使う国で、世界的にも規制が緩い。他の国に住んでいる人と話したりすると、自分達の無頓着ぶりがわかってきて、でもそれは今後、変わっていくんじゃないかと思うんです。今は無農薬のものって高くて割と裕福な層の人か意識の高い人しか買わないイメージだけど、それが今後主流になっていくんじゃないかと。歴史的に見ても、たとえば車でも最初は富裕層のものだったのが、すごく便利だし有用だっていうので、裾野が広がっていったわけですよ。改良を加えて、需要が高まるから量産されて、そうするとどんどん一般化されていく。農薬の話に戻ると、もちろん口に入る野菜なんかが先だとは思うんだけれども、花も食卓に飾るものだし、お見舞いで体調の悪い方に渡したりするものですよね。そうすると、何が大事なことなのか、っていうのが見えてくるじゃないですか。大切な人に愛してるよ、って農薬のついた花を渡すよりも無農薬で安心なものを渡す方が価値のあることだと思うし、おそらく最初は価格は高いでしょうけど、文化の流れとしてはまず富裕層が無農薬のものがいいとやり始めて、何十年かするとそれが主流になってくる。そういう考えもあって、無農薬栽培に取り組んでいます。それに、発がん性も疑われるような強い薬剤を簡単に認可して、そこらじゅうで売られていて簡単に手に入る今の日本に疑問を感じていて、そういう社会の矛盾みたいなものに挑戦していきたいな、っていう気持ちも少しあります笑。僕たち農家だって農薬を吸いたくはないですからね。
A:うん、私は健康が大事だなあ。結果的にそうなったことかもしれないけど、体調の改善は物凄い実感だったんですよ。そのことをたくさんの人に知ってもらいたいと思っていて、うちの植物を通して感じてもらえたらいいなと、強く思います。
農薬をやめたら喘息やアレルギーが劇的に軽減された。結構、衝撃的な話ではないですか?私個人としても、娘が小さい頃からアトピー性皮膚炎があり薬に頼っていたのが、一宮に越してきてうちの畑の無農薬野菜を食べていたら湿疹が出なくなった、という経験があります。以前は大きな道路に近いマンションに住んでいたので、排気ガスなど空気の汚れもあったのかもしれません。漠然と感じていた、環境や食べ物の大切さ。それをお二人の話が裏付けてくれたようにも感じました。そして、近所のホームセンターでも山積みで売られている除草剤を始めとした薬剤の多さ!我が家は農家だったと書きましたが、母によると出荷する野菜は虫食いでは売れないのでどうしても農薬を使わざるを得なかったけれど、家で食べる分と別にして薬を撒くようにしていたそうです。その経験から、今も除草剤など一切使っていません。母の話は何十年も前の話ではありますが、今はどうなのでしょうか。それに薬を使った方が作業は断然楽だったとアルジさんも話してみえました。薬を使えば楽だし、売れるなら、農家は薬を撒くし、国も農薬が使えるように認可する。農家じゃなくても除草剤を使えば草取りも楽です。でも引き換えに健康を失っているとしたら。。日本が無頓着ということは、私たちが無頓着だからなのです。アルジさんのお話を聞いていて、私たちが行動を変えていかないとダメだと痛感しました。
そしてまず健康に直結してわかりやすい食べ物から変わっていけば、花だって変えていけるはず。切花を扱うと手湿疹が出てしまう私は、切にそれを望みます!笑。生徒さんにも、皮膚が弱い方は花を触ったら手を洗ってくださいね、なんていう必要もなくなるわけです。すごく、すごく大変なことですがファームたかおさん、どうぞ頑張ってください!私たちも、何が大切かを考えながら選択していきたい、そう強く思います。
無農薬栽培へと舵を切ったお二人ですが、軌道に乗せるまでにはさまざまな試行錯誤があったそうです。その中で工夫したこと、そして確立させた無農薬栽培という農園の強みを活かすための活動についてのお話も聞かせていただきました。
データと経験値
K:お二人の体調の変化が劇的すぎて衝撃です。たくさんの花農家さんが無農薬で作ってくれたら、私たち花を扱う人間も嬉しいなと思います。もちろん大変なことだとは思うのですが、無農薬栽培に共感される農家さんもいるのでは?そういう方が増えていけば大きなうねりを起こすことができるかもしれない、とも思うのですが、同志を増やしていこう、といったお気持ちはありますか?
A:同志を増やすのは、やりたいんですが難しいなと感じているところもあって。これまで慣行農法で収益を得ていた農家さんが無農薬に移行するためには、数年かかるわけなんです。そして、その数年間は絶対に収入が減ります。だから簡単には勧められないですよね。特にお子さんがいるところなんかは農薬やめた方がいいよ、とは思いますけど、言えないな〜とも。絶対に貧乏になるから笑。
K:なるほど、、子供に農薬は確かに良くないと思いますけど、子育て期間こそ安定して収入を得たいというのも現実としてありますから、それは大きな障壁ですね。補助金とか出たらいいですけどね!
A:手間も増えますから、生半可な覚悟ではできないですね。あとは、彼が農薬を減らすことから始めた時、日本語で書かれた教科書なんてなくて。海外の文献を参考にしながら、このハウスでやるにはどうしたらいいか、というのを土や自分のイメージと向き合いながら積み上げていったんですね。だから、それがどこの農家さんでも使えるやり方か、っていったらそうじゃないと思うんです。時々、これから農業をやりたいっていう若い人が見学に来るんですけど、その時にまず聞かれるのが「何を使ってますか?」という質問。でもそれに対する、一つだけの正解はないんです。うちで使っているものは自分達で作っているものもあるし、同じハウスの中でも、場所や土の状態によって微妙に変えていて。だから、伝えるのもなかなか難しい。これ使ったらいいよ、とは簡単に言えないですから。考え方は伝えられますけど、でも誰もそうではなくて答えをくれ、という感じで。
K:まあ、やっぱり簡単にできる方法を知れたら楽ですからね。
A:そうですけどね、教えても無責任だし。本気でやりたいっていう方とはまだ巡りあえていないです。私としては、そういう若者が現れて数年ここで一緒に働いてから独立して、チームとして一緒にやっていくという広がりが生まれたらいいな、なんて思いますが、なかなか。
ア:ただ僕達の使っているものを教えたところで役に立たないと思うからね。例えば、農家さんよくやることなんですけど、この資材いいかも、ってとりあえず使ってみるとしますよね。それで去年と今年とで比べてみるんだけど、気候も育ち方も同じことはまずあり得ないから、ただ新しいものを使ってみてこれまでと比べてもしょうがない。資材だけ新しくして、他の条件を無視して良かった、悪かったの判断をしてもそれが正しいかわからないわけです。それで先に進めなくなっちゃうことが多いんですよ。僕はそれが嫌だなと思って。お金も労力もかけて新しいものを導入するなら、こういう条件下で使えば効果がある、っていうのを明らかにしたい。そのためには、同じ年にエリアを分けて、水や空気の管理を変えてみる。同じ年なら気候などの条件は同じになりますから、水、空気、といった人為的に管理できる条件を一つだけ変えて比べてみるわけです。何かを変えるなら、他のことを全部揃えないとそのものの本質がわからない。
K:データを積み上げて試行錯誤してやり方を見出していったんですね。コーヒーの淹れ方もそうやって研究されたとか?前職は研究職とか理系でしたか?
A:彼はずっと機械工学をやってたんです。農業って、理系のいろんな分野の総合的なものだと思っていて。機械のことも知らないといけないし、もちろん生物のことも、化学的なことも。多岐にわたります。かつ自然条件もどんどん変わっているし、ブラッシュアップが必要です。でもそれをしないで、経験があるから、とずっと同じやり方で固定している農家さん多いと思うんです。いや、経験も大事だと思うんだけど。
ア:経験則っていうのは、ちょっと危険な考え方でもあって。条件が毎年全く同じなら経験則も正しいんだけど、でも絶対に毎年変わるから、その中で経験が足を引っ張ることもあると思うので。例えば、「ケミカル」という農業資材があったとして、それを使ってみてまあうまくいったとします。そのうちに、「ケミカルエース」っていう改良されたものが出て、よしこれはきっと効果上がるぞ!と使ってみたけど、ケミカルとの違いがよくわからない。そうしたら次は「スーパーケミカルエース」っていうのが出て笑、またそれを使ってみる。まあ、なんとなくいいような気もするし、、。という感じに、よく考えたら最初のケミカルで良かったのかもしれないのに同じシリーズで改良されたからとつい使ってしまう。改良されたものは大体、値段も上がるんですよ。でもこれまで「なんとなくうまくいってた」という経験に引っ張られて、もしかしたら必要のない投資をしてしまっているかもしれない。やっぱり原理を知って見極めないと無駄なお金も使ってしまうよ、という話です。
K:なるほど〜、農業も科学なんですね。農業って経験がものをいうイメージがありました。
ア:もちろん、経験が大事な部分もたくさんあるんですよ。でも変化させて何かを知ろうと思うと、きちんとその物事を把握するためには経験だけではダメで、総合的に考えないといけないことが多い。その素養を作り上げるのが一番難しいことなのかなと思います。闇雲に10年、20年やりましたではなく、その間にどれだけ比較して実験したかという回数、この農業資材を使ってみてこんなことが起きた、そういう経験を重ねるのが大事。ただ作ってきました、だけでは意味がない。どの業種でもそうだと思いますけどね。
「ケミカル」のお話はつい笑ってしまいましたが、でも我が身を振り返ってみると、なんとなくで選んでお金を使ってしまったもの、あれもこれもそうかも、、と冷や汗。なんとなく、って、言い換えればこれまでの経験に基づく勘に頼っているということ。うわあ、確かに危険、農業に限らず本当どんなお仕事でも気をつけないといけないことだな、と思いました。そして、きちんと自分で積み重ねて、自分のやり方を確立することの大切さ。つい、先人の知恵に頼り、やり方を聞いて真似して安心してしまうことって確かにあります。でも場合によってはそれが裏目に出ることもあるのだと、アルジさんのお話を聞いてはっとしました。もちろん参考にはさせてもらいつつ、やはり自分で編み出していくことが道を切り開いていくのだなと思うのです。
K:そうやって積み重ねてきたものを皆さんにも知ってもらいたい、とおっしゃっていましたが、イベントなどを積極的にやっているのもその一環なんでしょうか。
A:はい、春に花摘み会をやっていることも、特に地元の方にはだいぶ知ってもらって浸透してきたかなと思います。桜が咲くとスイートピーは終わり、気温も上がってもたなくなり流通に向かないので4月には出荷を終えるんですが、でもハウスではまだまだ綺麗に咲いているし、人知れず終わるのはなんだか勿体無いなあと思ったのが始まりです。来季分の種をとったら、花が咲いていようがお構いなしに引き抜いてしまうのが普通なんですが、花畑みたいな農場の様子をみんなに見てもらいたいなあ、と思って。そこから、見てもらうだけじゃなくて花摘みもしてもらったらなかなかできない体験で楽しいよね、なんてどんどん広がっていき今に至ります。あとは、お花屋さんがたくさん来てくれるようになりました。4月って、卒業や送別シーズンで忙しい3月が終わり、母の日の5月までの間の時期でちょっと休憩というか、リラックスしてきてくれて、いろんな話をしてくれるんですよ。花屋の現状とかスイートピーの使い方とか。それこそ全国から来てくれて情報やアイデアをくれる、それもイベントをやるメリットだなあと感じています。
K:繋がったお花屋さんを講師として呼んで、さらにイベントも盛り上がっていったわけですね!知名度も上がったと思いますか?
A:いろんな方と仲良くなって、継続して話が聞けるような関係が築けているのもすごく嬉しいことですね。新しいお客さんが増えていると思います。今までなかったところから注文が入ったりするので。農薬を使っていないものを望む方が増えてきたのかな、っていう気がしています。うちのスイートピーだけを飾ってます!っていう方もいらっしゃるんですよ。
ア:根強いファンができたというか、応援してくれてるな、と感じています。
A:頑張ってください!とはよく言われます笑。他と比べて実証したわけではないですが、うちのスイートピーは逞しいと思うんですよ。枝のスイートピー(よく見る花だけのものではなく、複数の花枝やひげ、葉をつけた枝状のスイートピー)をシーズン初めから出荷するのはうちしかやっていないんですが、楽しみにしてくれる方も多くて。彼が、スイートピーを「飼う」みたいな視点で飾ると面白いと言っているんですが、枝スイートピーは花が咲いた後も変化がある、一番下の花から豆が出てきて次の段の蕾が咲いて、っていう日々の変化を愛でて下さいと。そうしたら最長で2ヶ月飾っていました!っていう方も。そういうことを実感して楽しんでもらえたら嬉しいです。
実際に参加してみて、咲き乱れる花畑で好きな花を摘むというのは、本当に楽しく無心になれて、まるでデトックスのような清々しい体験でした。いつもブーケに束ねているスイートピーが育つところに身を置いて、花と対話しながら摘み取る。実際、気がついたら「あなたはちょうどいい咲き具合ね〜」「君はちょっとおチビさんだから切らないでおこうね」なんて一人ごちていて笑。少しよそよそしかった友人が故郷の話をしてくれて一気に打ち解けるみたいな、そんなじんわりと温かい喜びも感じました。花好きなら一度はやってみたいと思うのではないでしょうか。花摘み会の開催は、出荷を全て終えて一段落やれやれ、という時に仕事が増えてしまって大変ではある、とおっしゃっていましたが、私たち参加者には貴重な機会でとても嬉しいです!誰もやらないことをやる、一歩先を見据えるファームたかおさんの行動力に感服です。じわじわとファンも増えているようで、今後ますます目が離せません!
さて、そんなファームたかおさんを私が知ったきっかけは、パリの師匠、斎藤由美さんの発信からでした。由美さんもパリで道なきみちを切り開き、日本にパリスタイルを広めた偉大なフローリストのお一人。実はファームたかおのお二人も、由美さんとの出会いがきっかけでいろんなご縁が広がったそうで、パリとのつながりそして今後の夢も伺いました!
チャレンジし続けたい!
K:私がファームたかおさんを知ったのは、斎藤由美さんのInstagram投稿だったと記憶しています。そこからフォローさせていただいて、花摘み会のことも知ったんですね。お二人と由美さんの出会い、フランスに行こうと思ったきっかけについて聞かせていただけますか?
A:あれは11年前かな、私は岡山に来てまだ2年目で、スイートピー農家の仕事を始めて1年が過ぎたところでした。その時は私、花に全く興味が持てなかったんですよ。岡山に来る前は、福井のケーブルテレビで番組を作る仕事をしていたので、岡山でもCM制作や編集のバイトをやったりして主軸を農園の仕事においてなくて。あんまりやる気がなかったんですね笑。まだ慣行農法だった当時はシーズンの合間は割と時間があって、それで彼にお願いして1ヶ月お休みをもらい、母とヨーロッパ旅行に出かけたんです。母は花が大好きで、オランダのキューケンホフ公園(チューリップが世界的に有名なフラワーパーク)に行ってみたいと常々言っていたので、連れていってあげたくて。由美さんのことは当時、ツイッターか何かでフォローしていたんですが、せっかくヨーロッパに行くならレッスンを受けてきたらどうか、と彼に言われて、パリには友人がいて滞在予定だったので、じゃあ、お母さんも喜ぶだろうし行ってみるか、と連絡をとったのが由美さんとの出会いです。
K:そうだったんですね!お花に興味がなかったとは笑。でも今のイベント開催等の企画力はテレビのお仕事で培われたのかも知れないですね。由美さんのレッスン、どうでしたか?
A:どちらかというと母が喜ぶだろう、と私は付き添いみたいな感じで行ったんです。でも、その時に受けたレッスンがすごい衝撃だったんですよね。あまりに素敵で、キューン!ってなって。由美さんのレッスンはマンツーマンで一本ずつ手渡ししてくれるので必ず素敵になるようにしてくれるんですが、それでも目の前で、自分の手の中に出来上がっていくのが感動的で。母と色違いの芍薬と、グラミネと、名前わからないですけど枝物と3種類のブーケ。同じ花材でも二人の出来上がりは全く違って、でもどちらもすっごく素敵で、もうとにかく衝撃を受けて。なんてすごいんだ!花ってこんなにもキュンとするものなんだ!と。由美さんにも、スイートピーはとっても素敵な花で人気もあるし、それを作る農家だなんて素敵なお仕事ね、頑張っていい花を作ってね、と言ってもらい、もうそれから旅の後半は花にばかり目が行きました。お花屋さんとか、植栽にも。花ってなんて面白いんだ!と、それから花農家の仕事に対するモチベーションが上がって、ブーン!とアクセル踏み込んだ感じです。由美さんがきっかけなんですよ、花が面白いと思ったの。
K:初めてブーケを作る時って、感動しますよね、しかもそれがパリで由美さんのレッスンだったなんて羨ましい!ドキッとするのわかります〜。私も初めて由美さんの花を見た時、心臓が跳ねましたから。まさに人生を変える出会いだったんですね。それでアルジさんも一緒にパリに行くように?
A:それから毎年、パリに行くようになって、シェライユ(パリ近郊の地、草花や葉物、花木等を育て切り出して直接パリの花屋に販売している)にも。シェライユには当時から日本の方が住んでレッスンもされていて、花摘み会のイベントにも一時帰国時に来ていただきました。そのうちに彼も一緒に、農作業させてもらったり、配達の車に同乗してパリのお花屋さんを巡ったり。フランスにも日本のスイートピーは輸出されているので、スイートピー農家の方です、と紹介されると皆さん口を揃えて日本のスイートピーいいよね、すごいね、って言ってくれて。でも値段が高い、とも。パリ近郊の農家さんが作られているナチュラルなスイートピーやオランダから届くスイートピーとは、時期も作り方も違うこともあり、フランスでスイートピーを作ってみたいと考えたこともありました。
K:そうだったんですね!今後、チャンスがあれば海外でもやってみたいと思いますか?
ア:そういう気持ちもあります。でもまずは国内で安定的に自分達の作る花を多くの方に届けたいという思いが強いです。その上で、いろんなチャレンジをしていきたいですね。
A:そして健康をテーマに、植物のおもしろさやたくましさを世の中に発信していきたいです。年齢を考えると、あとどれくらいできるかな〜なんて思いますけど。やりたいことがどんどん出てくるんです。そんな夢の話を肴にして毎晩、二人で楽しく飲んでます。子供みたいに盛り上がってね!笑
ニコニコと、仲良く夢を語るお二人はとっても素敵でした!同じ情熱を共有することが前へと進む原動力なのかな、とも思います。今後は自分の口に入るものも作ってみたい、例えばハーブなども興味がある、とのこと。あゆみさんはハーブの資格も取られたそうです。でも「世の中ですでにみんながやっているようなことはやりたくない」とキッパリ!どうやったら面白いかな、と常に考えていて、でも人の健康の役に立ちたいと思っている、そう話して下さいました。お二人のチャレンジがどう実っていくのか、どんな方向に向かうのか、本当に楽しみです!
今回のお二人の話からはたくさんの気づきをいただきました。例えば、知ることの大切さ。農薬についての話は健康だけでなく、日本の政治、経済にもつながっている問題だということが分かりました。普段の生活の中では自分と政治経済のつながりなんてなかなか意識できません。でも、無農薬栽培の野菜や花を買うことが、もしかしたら今までの仕組みを大きく変えるきっかけになるかも知れない。よく、選挙の時期になると「あなたの一票が日本を変える」なんてフレーズを耳にしますが、これがまさにそういうことだよね、とも思いました。知って、考えて、選択して行動する。日々の生活の中で少しだけ丁寧に、そんなプロセスを大切にしなきゃいけない、そんなふうにも考えました。
そしてやっぱり、一番に印象に残るのはファームたかお産スイートピーの可愛さ、美しさです。お二人の愛情たっぷりに育てられたオリジナルスイートピーたちに、また来シーズンお目にかかるのを楽しみにしています。深く、楽しいお話をどうもありがとうございました!
ファームたかお HP:https://farmtakao.com/