大好きな碧南で~武保真紀子さん
シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。
パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。
第6回は、大好きとおっしゃる地元、碧南(へきなん)で地域をもりあげながら花仕事を続ける、ことりさんこと武保真紀子さんです。
出会いは「お茶会」
碧南市は、三河湾に面したのどかなで温暖な土地。お話を聞きに、はじめてことりさんのアトリエに向かった日は1月の寒い時期でしたが、単線の電車にコトコト揺られながら窓越しに日差しを浴びていると、南国という言葉が頭に浮かぶほどの暖かさを感じました。同じ愛知県でも、私が住む一宮とは空の色もなんだか違う!海に近くて開放的で気持ちの良いところという印象です。そんな土地に育ったからか、ことりさんはきっと誰とでもすぐに仲良くなれるんじゃないかな、というフレンドリーな方です。
初めてことりさんにお会いしたのは2020年10月、ことりさん主宰のイベント「お嬢たちのお茶会」に参加した時。パリから帰国したフローリストさんを講師にお迎えして、山から切り出したアケビやかりんの枝を組んだ大きなリースに参加者で花材をあしらいフラワーシャンデリアを制作。まるで野に居るようなテーブルセッティングでお茶会を愉しみました。この時も初対面とは思えない自然な会話、ずっとお友達だったように迎えてもらえて、とても寛いだ気持ちで楽しい時間を過ごしたのでした。
実はこのイベントに参加する前から、ことりさんはちょっと気になる存在でした。同じ愛知県で活動していること、そしてことりという名前。前述のイベントのネーミングも「お嬢たちのお茶会」だなんて面白い!どんな方なんだろうな~と、Instagram等をこっそり拝見していたのでした。センスもさることながら、イベントに参加して、その花材調達力に脱帽。フローリストとしてのキャリアにもがぜん興味がわいて、今回インタビューをお願いしました。花、そしてパリスタイルとの出会いから、地元で展開する様々な活動についてたっぷりとお話を伺いました!
運命の出会い、パリスタイル
加納(以下B):私がことりさんのことを知ったのは、たしか由美さんの会報で、パリでのレッスンの様子が載ってそれを見たからと記憶しています。愛知の方だ、と印象に残ったんですね。そこで「おいパリ」のことも知って。伝説のツアーともいわれている「おいしいパリツアー」にことりさんも参加されたんですよね?それがパリスタイルとの出会いだったんでしょうか、まずはそのツアーについて教えて頂けますか。
ことりさん(以下K):「花と遊ぶ、おいしいパリツアー」だったかな。2010年に、由美さんと、幸恵さん(インタビュー1,2回目に登場)、旅行関係のお仕事されてた方とで企画したツアーでした。そのパンフレットが花市場のレジ横に置かれていたのをふと手に取って見たんですが、ものすごく魅力的な内容で!お庭でブーケを束ねた後、ワインとチーズのマリアージュを楽しむガーデンパーティとか、パリのトップフローリストのデモンストレーションとレッスンとか、マルシェの散策とか、とにかく素敵なツアーだったんです。それでそのパンフにヴァンソン(パリのトップフローリスト、由美さんのビジネスパートナー)と由美さんの写真が載ってたんだけど、あれ?この男の人どこかで見たことあるな、と思って。最初は雑誌とかで見たのかなと思ったんだけど、よくよく考えたら、その前の年にお友達と行ったパリ旅行で会った人だ!って。ランチにお目当てのお店を探して行ったらまだ開店前で、近くに以前ヴァンソンが働いていた「パスカルミュテル」があったんですね。お花屋さんも見たかったので、待つ間にその前で写真を撮っていたら、店の中から男の人が手を振って一緒に写真に入ってくれたんですよ。改めて写真をみたら、やっぱりその人はヴァンソンだったの!友達に話したら、それはもう行くしかない、写真持って会いに行っておいで!って言われて。でもそのツアーのお値段が、当時の私にはちょっとお高くて笑、迷ったんですけど、でも電話だけでもしてみようと連絡したら、最後のお一人です、と。これは行くしかない!と思って申し込みました。
B:なるほど!偶然写真に入ってくれたヴァンソンさんのことは、ツアーのパンフレットで写真を見るまで全く誰だか知らなかった、ってことなんですよね?
K:そうなんです、その時はクリスチャントルチュ(由美さんも師事したトップフローリスト)とか、パスカルミュテル(トルチュのエスプリを引き継いだ花店、現在は閉店)がそこにあるとか、そんなことは一切知らずに、ただパリのお花屋さんを見てみたいと思っていて、たまたまであった花屋に居たのがヴァンソンだったという。
B:それすごいです、運命ですね!
K:でしょう?その写真はヴァンソンが欲しいって言ったから、あげちゃって手元にはもうないんですけどね。
B:ツアーは絶対楽しかったと思うんですが笑、一番印象に残っていることは?
K:楽しかったですよ~!フォンテーヌブローでのガーデンパーティがとにかく素敵で、強烈に印象に残っています。すごく広いお庭で、木にはブランコが下がっていたり、小さな小川も流れていて。そこにベルちゃん(由美さんの友人)がバーベキューを用意してくれて、チーズもすごく美味しくて。
B:最高ですね!
K:あとは、ヴァンソン、由美さんがデモとレッスンをした場所。たしか由美さんが当時借りていた場所で、奥は画家さんのアトリエになってたと思います。佇まいが素敵で。そこでヴァンソンが作ったブーケの一つを、私もらうことができたんです!
K:うらやましい!まさにフローリストのためのツアーって感じですね。大手の旅行会社のツアーには無いものばかりですよね。
B:ほんとそうです!このツアーの後は個人でパリに行くようになって、全部で7回くらい行ったかな。私もパリのお気に入りの小道とか、お店とかだいぶわかってきたので、例えば行きたい方を募って、マルシェで花を買ってお部屋でブーケレッスンとか、パリの案内をしたいなって計画もしてます。コロナでまだ実現できてないですけどね。
B:それは楽しそうですね!「おいパリ」への参加が一つの転機というか、パリスタイルを意識するきっかけになったのでしょうか?
K:そうですね。でも由美さんのことはそれ以前から知っていたんですよ。おいパリを企画した方が、由美さんの一時帰国レッスンも名古屋で企画してて。その募集のパンフレットだったと思うんですが、紫×オレンジのブーケが載ってたんです。それを見て、やだ~この人、私と同じ色合わせが好きなんだ!パリにもこういう人がいるんだ~って、その時はもうすっかりライバル視ですよ笑。
B:さすがです笑!
K:そう言うとみんな笑ってくれます笑。おいパリでは、日本全国いろいろなところから参加者が集まっていて、パリや花、写真なんかが好きというメンバーで。中でもお花が好きっていう方とはツアー中も仲良くしてもらったし、今もいろんな話や相談なんかもするんです。本当に、良い仲間ができました!その後、パリに行くたびに由美さんやヴァンソンのレッスンは必ず受けてます。おいパリに行くまではブーケレッスンなんてしていなかったけど、みんなの話を聞いて刺激を受けてレッスン内容も見直したり、ツアーから帰ってくるときにはいろんな学びで頭の中がいっぱいになってましたね。
まさに運命の出会い!たまたまパリで写真を撮った人と後日再会するなんて、ドラマに出てきそうな展開ですよね。でもこういうご縁というか見えない糸でつながっているようなこと、のちに考えるとあれが転機だったな~なんて振り返るような出来事というのは、人生で確かに起こり得ます。それは自分の心に素直に行動した結果、起こるような気がするのです。ことりさんにとっては、それが「おいパリ」への参加で、迷いつつも電話をした、その行動がいまにつながっているのかも、と思えます。偶然の出会いも、実は必然だったのかもしれません。
鮮烈な印象を残したパリスタイルフラワーとの出会いは、その後ことりさんの花人生に大きな影響を与え、生徒さんとパリツアーを計画するまでにパリに惚れ込むことになったのでした。そんなことりさんに、花の仕事を始めたきっかけなど、これまでの歩みを伺いました。
花が好きだから。
B:次に花歴をお伺いできればと思います。花の仕事をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
K:母がもともと花が好きで、土地を借りて野菜や花を育てていたんですね。毎年出てくる水仙とか、トケイソウとか、ガーベラとか、他にもたくさんの花が植えてあって、その花を切っては幼稚園にもっていく子供でした。いたでしょう?そういう子。それでだんだん、お花に興味を持ったんだと思います。毎年、母の日には家の前の空き地に咲く花を摘んで、はいプレゼント、って渡したりして。
B:可愛いですね~
K:そうなの、可愛いでしょ笑。それから、保母さんとかクレープ屋さんとかなりたいものは色々変わったりしたけど、いざ就職となった時に、やっぱり将来はお花の仕事に就きたいからまずはお金を貯めよう!って思ったんです。それで地元の自動車関連の会社に勤めました。お給料も良くて、遊びも楽しみつつしっかりお金も貯められて。4年くらい働いて、じゃあそろそろお花関係の仕事に進もうと思って退職して、最初は隣の市にあったドライフラワーのお店でアルバイトをしました。でもやっぱり生花が好きだなと思って、そこはやめさせてもらって、インターネットで探した名古屋の花店に就職しました。社長はちょっと個性が強い方だったけど、メンバーがすごく良くて楽しく働いてました。毎日のように仕事の後も一緒に遊んで、朝はまた始発で出社して笑。
B:碧南から通ってたんですよね、それは結構タフでしたね!そこでは何年くらい働いたんですか?
K:そう、名古屋の栄まで行ってたから通勤は1時間ちょっとかな。そこでは1年くらい笑。どうしてかっていうと、その頃、地元のお友達と海外旅行用に積み立てていたお金が結構たまったので、じゃあみんなで行こうって話になったんですね。それで社長に、3日くらいお休みが欲しいとお願いしたら、3日も休むやつはいらん、もう来なくていい、と言われて。それまで周りは仕事も遊びも頑張れ!みたいな人ばかりで、まさかそんな風に言われると思ってなくて、ショックを受けて。色々考えて迷ったんですが、やっぱりこの人の下で働くのはちょっと違うかな、と退職しました。辞める前から、先輩に教えてもらったお花の教室に通っていたんですが、花店をやめてからもそこで花を続けながら、他にもやりたかった陶芸とかお料理とか習って。もともと作ることが好きだったんですね。でも働かなきゃいけないからどうしようかな、と思っていた時、家の近くにショットバーができたんです。昼間は自分のやりたいことをしたいから、じゃあそこで働こうと。お花の教室にも通い続けて次第に自分でもレッスンをやり始めて、昼間は花のレッスン、夜はショットバーで働いて、という生活が18年続きました。
B:そうだったんですね!昼はお花、夜に働いて、っていう生活が18年もあったんですか。
K:そう!笑、でも18年の中で少しずつ生徒さんが増えたり、パリにいったり、という変化はありました。
B:だんだんお花の仕事の比重が増えていったという事ですね。最初はお花だけでは食べていけないから、夜は違う仕事をして頑張って。
K:そうです、そうです。花一本でやっていけるまでにそれだけかかりました。ショットバーの仕事も少人数でまわしたり、夜の9時半までレッスンしてそれから仕事という事も良くあって。2時3時まで接客をしてから仮眠を車の中でとって、ほぼ徹夜で仕入れに行くなんてこともやってました。ほんとに昔の話ですけどね、今は絶対にやりません!若かったから何とかなってましたけど、今考えると怖いですよね。
B:それはほんとに若いから出来てたことですね。
K:私、ちょっとお笑い芸人さんみたいだったかな~と最近思っていて。すぐに芽が出る人もいますけど、アルバイトで収入を補う生活を長くして、コツコツやってようやく芽が出た、みたいな芸人さんいますよね。私そんな感じだったなと笑。お花の世界でもそうじゃないですか、例えばパリで勉強して、帰ってきてすぐ生徒さんもいっぱい増えたとか、面白い仕事ができてるっていう方もいますよね。良いなあって憧れて、彼女たちみたいになりたいなって思っても、地方の田舎で、じゃあどうしたらそうなれるかって考えてもちょっとすぐにはわからないじゃないですか。これはお笑い芸人だと思ってコツコツやろう、と。でも嫌かと聞かれたら全然嫌じゃなくて、これも楽しい。私は独身で援助してくれるパートナーもいないし、だからどれだけ花が好きかという気持ちだけでやってきたんだと思います。でも継続している人たちはみんなそこが同じなんじゃないかな。
B:これでいいのかなって不安になる時もきっとありましたよね。
K:ある。でもだからといってここじゃなくてどこかに行って、という考えもなかったんですよ。
B:以前、インスタだったかに「花(在庫)のない花屋のはしりは私かも」って書かれていましたよね。最近そういうやり方も増えていますけど、最初から在庫を持たないでやろうと思ったきっかけみたいなのはあるんですか?
K:一人でここでやっていこう、と決めた時に、こんな田舎で、お花いっぱい並べていて誰か来てくれるのかな?って思ったんです。駅から近いけど、一方通行の道だし通りかかる人もそんなにいない。じゃあ必要な人に、その時に仕入れた新鮮な花を届けたほうが喜ばれるんじゃないか、と考えて。それいいなと思って始めたんですよ。でも良くない部分もわかってきて、まずは知ってもらえないという事。お花が並んでいれば、ああここは花屋なんだなって知ってもらえて、じゃあプレゼント買うときはここに来ようと思ってもらえる。でも花がないから、ほんとに知ってる人しか来てもらえない。あまり人が通らないとはいえ、やっぱり知られる機会が減るのは確かですよね。あとは、注文がほんの少しでも名古屋まで仕入れに行かなくてはいけないという事。でもそれはロスを捨てる引き換えと思えば、まあトントンというかそっちのほうが生き残りやすいかなと思ったんですね。
B:なるほど~。最初から自分でそう考えてやってこられたのはすごいです!
K:ありがとうございます笑。なかなかすごいと思ってもらえてないんだけどね。地元の人なんて、いまだに私が何をやっているか知らない人もいっぱいいますから。でも公民館での生け花とか、お供えのお花とか、注文も頂けてありがたいです。いろいろと周りからも助けてもらったり、勉強させてもらったりしてます。
一見、きれいで華やかな花の仕事は、早朝からの仕入れや、水の入った重いバケツを運ぶなど体力勝負の仕事が不可欠。そのうえに、夜ショットバーで働くなんて、いくら若かったとはいえかなりの根性がないとできません!それでも「花が好き」という気持ちでコツコツと続けてきたということりさんを、改めて尊敬しました。いつも笑顔でふんわりとした雰囲気を纏うことりさんからはちょっと想像できなかった経歴。お笑い芸人だよね~、なんて冗談めかして笑い飛ばす強さにも惹かれます。地道に続けるということは、言うのは簡単ですがしんどい時もあったはず。それでも軽やかに今を愉しむ姿がとても素敵です。そしてことりさんは、コツコツ続けるだけでなく、面白い企画を次々と繰り出して地元を盛り上げるアイデアの人でもあったのです!
アイデアはどんどん話す!
B:以前、参加させてもらった「お嬢たちのお茶会」、この辺りでさかんな醸造業である白醤油の会社のイベントスペースを借りての開催でしたよね。他にも碧南の特産品である人参「へきなん美人」を使ってのディスプレイなどもInstagramで発信されてましたが、そういう地元のお仕事を意識してやっているところはありますか?
K:イベントをした白醤油屋さんは生徒さんからのご縁でお借りできたんですが、会場ないかなって探していると、地元のそういう面白いところにたどり着くんです。この辺りは醸造関係もそうだし、瓦とか、いろいろな特産品があって面白いところだなとつくづく思っていて。そういうものとお花で上手にコラボできたら、碧南がもっと盛り上がって楽しくなるのでは、という思いはあります。
B:このインタビューの前にランチをご一緒したのも、みりんの会社がやっているレストランでしたね。とっても美味しくて、いろいろなみりんが売られていて楽しかったです!
K:でしょう?あと私、キッズレッスンもしてるんですが、その子たちと一緒に地元のイベントでやりたいことがあって。この辺りは昔からの寺町で、お寺がたくさんあるんですが10月に寺町ウォーキングというイベントがあるんですね。歩行者天国になって出店が並んで、地元の一般の人もお店を出してもいいことになっていて。そこで私は子供たちとリアルお花屋さんをやりたいの!楽しそうでしょう?お母さんたちがお客さんだから絶対売れるし笑。でも、自分が作ったものを誰かに選んでもらえて、買ってもらえる体験はもっとお花が好きになるきっかけにもなるんじゃないかと思うんです。お花が好きな人をどんどん増やしていきたい。コロナが落ち着いたらやりたいことの一つですね。
B:それは楽しそうです!子供たち、絶対喜びますね。
K:あとはね、私、絵本を作りたいんです。どういう絵本かというと、例えば病気で入院している人がいたとして、お花の代わりにお見舞いにもっていけるような絵本。今、お花はダメっていう病院がほとんどじゃないですか。お花みたいに、病気の方にそっと渡して寄り添えるような絵本が作りたいんです(※花を入れた水に菌が繁殖し免疫の落ちた患者さんに感染するリスクがあるという理由で、お見舞いに生花を持ち込めない病院が増えています)。フランスのノートみたいな綺麗な色の表紙で、シリーズ化もしたい!
B:かなり具体的なイメージもできてるんですね!
K:そうなの、でもお金もかかるだろうし、クラウドファンディングで盛り上げて広めようかな、とか。絵が描けるわけじゃないから、描いてくれる人も探さないといけないし。これもやりたいことの一つ。こうやって話すと、アイデアを真似されるっていわれるかもしれないけど、でももし、それで救われる人がいるならそれでいいかなと思っていろんな人に私の夢を伝えています。だからぜひインタビュー記事にも書いてください!笑
このほかにも、長野のとある村の宿オーナーと意気投合して自然を楽しむツアーを企画していたり、とにかくアイデアが次々と湧いてくるのです。それは楽しそうに、目をキラキラさせて色々な夢や計画を語ることりさんの熱にひっぱられて、なんだか私までどんどんワクワクしてくるのを感じました!やりたいことを口に出すと、感覚が似た人が集まってきて意外に叶っちゃうよね~と話すことりさんには、何か磁力のようなものを感じます。合わない人とは自然にいい距離をおけるし、引き合う人とはとことん楽しんでやっちゃう、そんなチカラ。
そして碧南を盛り上げたいという地元愛からも、たくさんのご縁が生まれていくようです。このインタビューの時にも、もうすぐ碧南の特産である輪菊を使った展示をするんだ、というお話が飛び出しました。なんと約3000本の菊を使って装花をするとのことで、それはぜひ見に来なくては~!と、後日また碧南を訪れることになったのでした。
菊のイメージが変わる瞬間
2月5日~13日、碧南市あおいパークにて行われた「へきなんの輪菊展示会」。これは、愛知県の花き消費回復対策事業(新型コロナウイルス拡大の影響を受けて需要が落ち込んでいる県産花きを、公共施設等にディスプレイすることで「花の王国あいち」の花をPRし消費回復につなげる)の一つとして開催されました。この事業は県内のあちこちで行われているそうで、調べてみたらフラワーバレンタインのイベントなども開かれていました!愛知県は花の産出額が日本一、そして菊の産出量も日本一。社会科の教科書に、夜明るく浮かび上がる電照菊のハウスが立ち並ぶ写真が載っていたのを見た方も多いのではないでしょうか?(東海地方だけかしら笑)菊は慶弔関係に欠かせない花として大きな需要がありましたが、今はコロナの影響で使われる機会も減っています。そこで、菊をもっといろいろな場面で飾ってほしい、仏花のイメージを払拭したい!という思いを込めて、この展示会を企画したとのこと。デザインの決定などこの展示に最初からかかわったことりさんに、会場を案内して頂きながらお話を伺いました。
B:三河地区、特に温暖な半島地域では菊の栽培が盛んというのは、昔、社会で勉強しました。碧南市でもやっぱり菊はたくさん栽培されているんでしょうか?
K:そうですね、実は碧南では白い菊を主に作っているんです。市ごとに主な色の担当が決まっていて、生産者さんもローテーションを組んで年中、供給ができるように作っているそうです。葬儀で必要だから切らさないように。でも今はその需要が減っているので、もうちょっと違う使い方をしようということでこの展示の内容を考えていきました。それともう一つ、この展示にはSDGsとかサスティナブルとか循環ということを組み込んでいます。例えば菊と合わせた植物は剪定したものを使っていますし、フルブルームスカイ(写真参照)の保水には、蘭などに使われていた保水キャップを再利用しています。このフルブルームスカイは、コロナで大変な時だけど上を向いて歩いていこう、っていう思いを込めて空から降り注ぐような展示にしました。
B:メインの展示は大きなツリーのような形をしていますが、これは何かをイメージしたんですか?
K:最初は塔、天と地を結ぶ塔と言っていたんですが、菊も植物だから塔じゃなくてツリーにしようということになって。天は太陽、地は碧南の大地、そこから大きな木が生えて碧南の菊を満開に咲かせている、というイメージです。ツリーの木はヒマラヤスギ、碧南の図書館の木で、ちょうど剪定するからいいよ、と市役所の方の許可をもらって使わせてもらいました。松は知り合いの庭師さんに声をかけておいて、タイサンボクはチームメンバーの方のお宅のものです。そんな風にして集めて、買ったのは菊だけですね。
B:まさに碧南の植物100%で出来ているんですね。菊を染めたのはスイートピーみたいに染料を吸わせて?
K:そうです。中心が白く染まっていないものは、染めた時に蕾だったもの。蕾だと色を吸わないみたいです。生産者さんによって花の仕立て方や大きさが全然違うんですが、今回の菊はどれもすごく大輪で立派!憧れる菊ですよね笑。
B:染めたことによって、絶妙なニュアンスカラーにもなり素敵です。花びらの数も多くて立派で、まるでダリアみたいにも見えますよね。菊って、ある一定以上の年代は特に、仏花のイメージが強いと思うんです。染めたことによって見方を変えてもらいたいという狙いがあるんでしょうか。若い方たちは、意外に可愛いって思ってくれそうですよね。
K:花びらの数、良いところに気が付いてもらいました!これはプロのなせる業で、電照の当て方で花びらが増えるそうなんです。生産者さんにご挨拶するときに私も一緒に行かせてもらったんですが、そういった栽培の技や生産者さんの取り組みの話を聞かせてもらえて、とても勉強になりました。本当にダリアみたいですよね!染めたのは白のままよりもカラフルでポップになって、より親しみを感じてもらえるかなというのはありました。でも、白のままでもきれいでしょう?白×グリーンのパリスタイルの色合わせ。私的にはそのままの姿も見てもらいたかったかな、とも思いました。ダリアよりも花もちもいいし、スタンド花とか、花を持たせたい時なんかにはすごく使えると思うんですよ。菊はバラっと散るイメージがあるかもしれないけど、碧南の土の栄養をいっぱいもらっているからこの菊はバサッと散らないんです。だから作業も楽でした。
B:作業にはどれくらいかかりましたか?
K:全部染めるのに3日、そのあと菊を10本ずつ束にして保水する作業と組み立てで1、2日くらいだったかな?碧南市では「おうちに花を飾りましょうプロジェクト」っていうのをやっていて、市内の施設にブーケを届けたりしているんですが、そのメンバーが今回、中心になって作業しました。農家さん、JA、市役所、そして私たち花屋といった人たちです。みなさんそれぞれの仕事もあるから、交代しながら。
B:簡単に染められるものなんですか?
K:1日ほど、水を切らしておくんです。そうすると染料に入れたとたんにみるみる吸って、1時間もしないうちに色が入り2時間も置いたら濃い色に染まりました。そのあと、水に入れるとまた発色が良くなるんです。だから薄く色づいたくらいでも鮮やかに色が出ます。あのおもちゃみたいなピンクも、驚くくらいにあっという間に染まって。ちょっとこれ白いからもう一度染めようか、って話してたら可愛いピンクになったり。そうやって染めた菊を会場に運んで束にして、保水して。ツリーの土台は単管パイプを組んでいます。組み立てもJAの課長さんが中心になってみんなで支えて。一度、倒れそうになったことがあったんですが、その場にいた全員が駆け寄ってガッ!と支えて大丈夫だった、なんてこともありました。メンバーの結束を感じました!菊の束は結束バンドで止めているので、撤去もバンドを切って外すだけですごく楽だと思います。
B:なるほど~、いろいろな立場の人が集まって作り上げたんですね。ちょっと文化祭の準備みたいで楽しそうです笑。まだ展示会期は終わっていませんが、やってみての感想はいかかでしたか?
K:この展示のキャッチコピーが「菊のイメージが変わる瞬間に立ち会ってください」というものだったんですが、誰よりも、作らせてもらった私たちが一番変わったな、という感じです。私たち花屋の感覚が変わった。もちろん、来てくださる皆さんにイメージを変えてもらいたくて作り上げた展示でしたが、菊を染めながら、この色いいよね、華やかな色のはお祝い花なんかにも使えるよね、とか。ナチュラルに仕上げたいときには違うかもだけど、用途に合わせてうまくやれば色々使えるんじゃないかな、って可能性が広がるように思えたんです。最初の、菊か~、正直どうなるんだろうっていう思いが、最後には、菊で良かった、に変わった。碧南ではほかの花も栽培されているんですが、今回の展示には菊があっていたかなと思います。
B:大輪で、ポンポンした形が可愛くて映えますよね。染めの色も工夫したら、ブーケなんかにも取り入れられる可能性がありますよね!
K:でもね、生産者さんは手が無いとおっしゃるの。やはり染めるにはひと手間かかってしまうから。だから私は個人的に試してみても面白いかな、って思ってます。染料も市場で手に入りますしね。今回はいろいろなことを知るきっかけにもなりました。こんな大きな作品もなかなか作れないですし、すごいね~ってみんなに喜んでもらえたし、本当にいい機会を頂けました。会期中、花を持たせるためにメンテナンスに来たり、作業しながら花屋同士も交流が生まれて、それもすごく良かったです。ポップや案内板など細かなところにも目を配って、いろいろと準備してくれた市役所の方の働きぶりにもすごいなって思いました。こういうのも、なかなか普段はわからない部分ですよね。
B:碧南を盛り上げたい!っていう気持ちが集まって出来た展示だったんですね。
話を聞いている間にも知り合いの方がひっきりなしにやってきては、「こんにちは~」「来たよ~!」とことりさんに声をかけていきます。するとことりさんは、ちょっとごめんね、とお話をしに行ったり、ブーケをお渡しして写真を撮ってあげたり。地域の方に愛されてるなあ、あったかいなあと思いながら、私も写真など一緒に撮らせて頂きました。地元でコツコツと積み重ねてきたからこその、人の温かさを感じます。わりと人との距離が近くてちょっと煩わしいこともある田舎暮らし。私も田舎に住んでいるので感じることですが、でもいざとなると助け合える地域のチカラみたいなものは心強くて、そんなところもひっくるめての良さが、この展示会にも出ているなあと感じました。
そして同じように地方の田舎な地域で花教室をする者同士として、学ぶべきところがたくさんありました!都会との差を感じても、それをマイナスと捉えず、今ここで出来ることを考えて楽しむ姿勢。パリスタイルのエッセンスはしっかりと伝えつつも、フレキシブルに仕事をこなすこと。何より、花が好きという気持ちを忘れずに「続けていく」こと。そんな風に、私も自分の周りを楽しくしていけたらいいな。そして自分も楽しみたい!田舎でも、今やネットに繋げば大抵のものは手に入る時代。東京とリモートワークも可能です。でも例えばアート鑑賞や何かを習う事など、やっぱりネット越しではなくリアルな体験がいいな、というものもたくさんあります。地方でも、例えば私たちがパリスタイルフラワーを広げていけば、地方暮らしがもっと心豊かに、盛り上がるきっかけになるかもしれない。そんなことも考えました。
そうそう、ことりさんの名前の由来をお聞きしたら、お花に似合うやわらかな響きの名前がいいと思うよ、との地元の友人のアドバイスでことりを名乗るようになったとのこと。違う名前を名乗るのって少し勇気がいるような気がするのですが、ことりさんはすがすがしいほどに、いたって自然体。私もそんな風に、自分に正直に楽しんでいきたいなと思えました。ことりさん、どうもありがとうございました、また会いに行きます!
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