理想の楽園~川野由香里さん
シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。
パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。
第5回は、大分で、花の栽培からギフト制作やスタイリングまでをトータルで手掛ける川野由香里さんです。
大分とフランス
お花屋さんで働きたくて進学先も園芸科を選んだという由香里さん。在学中から生花店でアルバイトをし、そのまま就職して数年働きました。以前から海外へ行ってみたい、海外で働いてみたいという夢を持っていたとのこと、あるきっかけでフランス語を学び始め、その後フランス留学へ。奇しくも滞在中にコロナ禍にみまわれパリでロックダウンを経験。それを乗り越えて花の研修も無事に終え、帰国。現在は大分で花の栽培からギフト制作、スタイリングまでをトータルで行う新しい花仕事のスタイルを模索しつつ奮闘されています。
由香里さんにお会いしたのは、2020年1月のパリ花短期研修でローズバッドへレッスンを受けに行った時でした。お互いのレッスンを見学したり写真撮影をご一緒したり。短い時間でしたが、パリで偶然お会いしたご縁というのは色濃く印象に残り、その後も由香里さんのInstagram投稿でフランスでの様子を拝見していました。ローズバッドでの研修のこと、パリで一人乗り越えたロックダウン、そしてフランスの地方都市での農業体験の様子はとても興味深く、ずっとお話を聞いてみたいなと思っていたのです。だからインタビューという事を始め、どなたにお願いするかなと考えて由香里さんのことがすぐに思い浮かびました。連絡を取ってみたところ快諾を頂き、今回のインタビューが実現。フランスでのこと、大分でこれからやっていきたいこと、たっぷりお話を伺いました。
憧れの海外へ
ほんの数時間、レッスンでご一緒しただけの私にも、画面越しにお久しぶりです!と笑顔をむけてくれた由香里さん。パリで感じた優しい、でも芯のある方という印象そのままに、たくさんのお話をしてくださいました。まずは近況をお聞きしながら、パリでお会いするまでのことを伺いました。
加納(以下K):パリでご一緒してから由香里さんのInstagramをずっと拝見していました。フランスでのこともたくさんお聞きしたいと思っていますが、大分に戻られてからは畑で花材になる植物を育ててみえますよね、それがとても気になっています。具体的には日々、どんなことをされているのでしょうか。
由香里さん(以下Y):毎日、汗だくで農作業やってます笑。まだ暑いので(お話を伺ったのは10月初め)、早朝か夕方でないと耐えられないですけどね。母方の実家がお米を作っているんですが、今は使っていない田んぼが2,3枚あってそこを借りています。
K:もともとが田んぼということは、土の状態とかはどうなんでしょう?
Y:もう土のコンディションは最悪です笑。排水性がなく、どうしようかと。一日雨が降っただけで小さな池ができるんですよ。田んぼなので水がはけないシステムになってるみたいで。土壌改良をしているところです。
K:土を新しく入れたりとか?
Y:それが田んぼまでの道が獣道みたいなすごく細い道で。収穫のための大型コンバインが入らないから米を作らなくなった田んぼなんです。だから軽トラも入らない、重機も入れられない。何か運ぶには一輪車で、完全に人力で一人でやってますから、ちょっとずつしかできなくて。土を入れるのも難しいので緑肥(新鮮な緑色植物を腐らせずに土壌に入れて耕し肥料にする)を漉き込もうと思ってたんです。でもそのための緑肥作物も育たないくらいに強い雑草がはびこっていて。それをまず取らないといけない状態です。
K:それは大変ですね、、それでもやろうというのが凄いです。やっぱり水はけが悪いと育たないんですね。
Y:最初にユーカリを植えたんですけど、水たまりの中で溺れていて。かわいそうなことしたなと思ってます。とりあえず心折れるまでやってみて、もう駄目だと思ったら他の事考えます笑。
K:それでも向日葵とか、何種類かは育ててブーケに使ったりされてますよね?
Y:そうですね。でも実は田んぼの方ではあまり水をやらなくても育つようなもの、例えば樹木系とかワイルド系の草花なんかを植えています。向日葵とかスカビオサとか、秋桜とか、水やりが必要な栽培周期の短いものは、おばあちゃんの畑を使わせてもらってるんです。秋桜なんかはあまり手をかけていませんが笑、畑だと土の心配がないので。
笑いながら話す由香里さんですが、これって本当にしんどい重労働です。我が家も実は元農家で田んぼや畑があるのですが、夏の雑草のはびこる勢いはびっくりするほど凄く、少しでも放置しておくとすぐに腰くらいの高さまで成長し、根っこも深く除去するのも大変なことになってしまいます。機械もはいらない、田んぼだった土地のお世話を一人でするというのは、かなりの気力、そして体力が必要なこと。庭先の草とりでもなかなか出来ない私、本当にすごいなと尊敬します!
K:そもそもの始まりをお伺いしたいのですが、パリに行く前にもお花屋さんで働いていたんですよね、花の仕事は前からの夢だったんでしょうか?
Y:花屋になりたいと思って大分の短大の園芸科に進み、在学中に取れる資格を片っ端からとりました。フラワー装飾技能士とか。花屋さんでアルバイトもして、そのまま就職したので他の職種の経験はないです。ほんとは高校の頃は獣医さんになりたかったんです。でもちょっと勉強がきつくて笑、それで他を探して花屋に興味を持ちました。
K:生き物に興味があるんですね!今やっている育てるという事にもつながりますね。
Y:そうですね、動物とか植物に興味があります。
K:順調に花屋で働いていたわけですよね。パリに行こうと思ったのは何がきっかけだったんですか?
Y:私、学生の頃から海外留学とか海外で働くことに興味があったんですね。でもいつか行けたらいいな、くらいな気持ちですぐに動く気も勇気もなかったんです。でも大分の花屋で働いていた時に、年下の友達がマルタ島に留学すると言って英会話をめっちゃ勉強してて、それ見て、かっこいいな~と思って。私もすぐに海外に行けるかは分からないけど、とりあえず英語が話せたらいいなっていう軽い気持ちで笑、知人に英会話教室を紹介してもらいました。それで最初に行ったときに学習目的を聞かれたんですね。ゆくゆくは海外で働いてみたい、っていう話をして、じゃあどこで働きたいの?と聞かれてフランスのパリとか、って答えたんです。職業柄、花屋での技術は身につけてるから海外でもまあ通用すると思っていたし、パリスタイルが大好きだったので、パリに行ってみたいと。それならフランス語習ったほうがいいよ!って言われて、あ、そうなんですねって笑。
K:確かにそうですね笑。それでフランス語を習い始めたんですね?
Y:その学校にはフランス語コースもあったので、じゃあフランス語にしましょうって習い始めました。でも、週一回、一時間の授業では全然、上達しなくて。一年くらいたっても全く話せる気がしなくて、でももうこうなったら行っちゃうしかないかな、と思い始めました。それで当時通っていたフラワーアレンジ教室の先生に相談したんですが、それまで一度も海外に行ったことが無いという話をしたら、いきなり留学はちょっと無謀じゃない?と言われ笑。たまたま、先生のお知り合いにフランス人男性と日本人女性のご夫婦がいて紹介してもらって、相談に乗ってもらいました。じゃあ一回、旅行で行ってみたら?ということになり、パリに行って、その時に由美さんとヴァンソンのレッスンを受けて、ヴィジットも参加してすごく楽しくて。お二人の花はもちろん、由美さんの暮らすパリっていう世界にすごく憧れて、やっぱり留学しよう!と決心しました。流れ流れてたどり着いた感じです笑。
K:流れに乗ったというか、でも思いは一貫していますよね。パリスタイルが好きという気持ちが出発点だったわけですし。でもいきなりではなくて、段階を経たのは良かったかもしれないですね笑。
Y:ほんと、いきなりいかなくて良かったです。ご縁もありがたかったですし。旅行は2019年の1月に行って、それで同じ年の9月から留学しました。
K:まずローズバッドの研修に行ったんですか?
Y:いえ、その時はまだローズバッド研修は決まってなかったんですよ。とりあえずフランスに行こうっていう笑。語学の心配もあったので、最初の3か月間はロワール地方のトゥールっていう街で語学学校に通いました。でも語学研修が終わるころになってもあまり話せるようにはなってなくて、相手の言っていることはなんとなくわかるけど、話せない、みたいな感じで。それでお花屋さんで働きたい気持ちもあったんですが、どうしようか迷ってたんです。その時に日本から語学研修に来てた子に相談したら、それは絶対やらなきゃだめだよ!やらなきゃ後悔するよ、ってすごい熱量で言われたんです。思わず後ずさっちゃうくらいに笑。そうだよね、よし由美さんにメールしよう!と。ローズバッドで研修したいですって思い切って連絡とってみたら、その時にちょうど空いてたみたいで、大丈夫ですよ、って返事で。時期は2020年2月~5月ということで決まりました。
K:そのお友達に感謝ですね!
Y:本当に、そう思います。
いつも思う事なのですが、留学をした方は皆さん、行動力が素晴らしい!もちろん、事前準備が大切なのは間違いないのですが、えい!っと少し目をつむって飛び込むことで、次の道が開けるんだなあと思えるのです。もう一つ大切なのは周りのアドバイスに耳を傾けること。そうしてチャンスを手にし、大規模ストライキの最中、2020年1月2日にパリに到着した由香里さん。実は私も同じ日の夜にパリに到着、翌々日にレッスンでご一緒したのでした。その時は短い時間でお互い自分のレッスンに夢中だったので詳しいお話を伺っていなかったのですが、今思い返すと、これから始まる研修へのワクワク感でいっぱいの由香里さんの顔はとても輝いていました。ちょっぴりうらやましくなってしまうほどに。若さの特権だなと笑!
ところが、研修に入ってひと月ほど経った3月に状況が一変します。そう、あのコロナ禍でのコンフィヌモン(仏語でロックダウン)が始まったのです。お店はお休みになり、当然、研修も中断。それでも由香里さんは帰国せずにパリにとどまり、コンフィヌモンが明けるまでの2か月弱を一人で乗り越えたのでした。その時のことを伺いました。
大抵のことは乗り越えられる
K:念願かなって、さあローズバッドで研修だ!というときにコロナ禍でコンフィヌモンになってしまいましたよね。
Y:そうですね、2月から研修が始まって、コンフィヌモンになったのが3月中旬くらいだったと思います。一か月くらいは順調に研修を進めてたんですが。私、まさかフランスがロックダウンするとは思ってなかったんですよ。それまではみんなマスクもしてなかったし、コロナ流行ってるけど、どうせ中国とかアジア圏の病気でしょ、みたいな認識で。じわじわフランスがコロナにむしばまれているとは誰も思ってなかったと思います。
K:まさかヨーロッパがあそこまでひどくなるとは思わなかったですよね。あれよあれよという間に広がって。じゃあ突然のことだったんですか?明日からお休み、みたいな。
Y:結構、突然でしたね。土曜日の夜だったかな、マクロン大統領が演説して、外出禁止にします、って感じで突然の発表だったと思います。私も研修はどうなるのかなと思っていたら、由美さんから連絡があって、しばらくお休みで、コンフィヌモンが緩和されたら再開しましょう、と。じゃあとりあえずじっとしておくか、という感じでした。
K:結局、どれくらい続いたんですか?
Y:たしか5月の中旬くらいまでだったので、約2か月ですね。最初は2週間だったのが、延長、延長で結局8週間。
K:それは結構きついですよね。先が見えないというか。。それでも日本に帰らずにとどまろうと思ったんですよね。
Y:そうですね、いつになったら出歩かせてもらえるのかな、って、もやもやした雰囲気でした。最初は乗り越えられると思ってたんです。でもさすがに延長、延長となってくると、ちょっと考えないとな、、やっぱり帰ろうかなとも思い始めて。半年たってもこのままだったら、パリでずっと部屋に一人で、語学学校にも行けないし、街に出て誰かと会って話すこともできない。なんで私はフランスでただ、食べて寝て、って繰り返してるんだろうって思いました。
K:でも、もう少し、って思いとどまったんですね。帰国してしまったら、またいつパリに行けるかわからないですもんね。
Y:そう、もうちょっと、もうちょっと、って。とりあえず貯金が尽きるまではいるかと。日本に戻るのも大変そうでしたしね。外出許可書とか用意しなくてはいけなかったし、メトロも便数が減っていたり、空港までいくのも面倒だなとか。警察に止められたらなんて言おう、とか。ここでもまた語学の壁が笑。
K:何をするにも、フランス語が立ちはだかりますよね笑。コンフィヌモン中は何をして過ごしてたんですか?
Y:あまり自堕落にならないようにと思って笑。体を動かしていました。ヨガとかストレッチとか。あとは自分でテキストを使ってフランス語の勉強をしたり、普段しない料理をしてみたり笑。瞑想してみたりも。時間はいっぱいあったので。夜はずっとアマゾンプライムで動画見てました。「セックスアンドザシティ」を見たことがなかったんですが、全シリーズ全話を見てしまいました笑。
K:そうなんですね!でも、一人で乗り越えるってすごいと思います。うちは子供が二人いて、3月からいきなり休校になって新学期も始まらず、2か月ほどずーっと家で過ごしてたんですね。中一と高一だったんですが、二人とも楽しかった学年の最後が尻切れトンボで区切りもつかず、だんだん何をやっても楽しそうじゃなくなって、なんとなく無気力になっていくようで怖かったです。私自身も、そんな感じで。これはいけないと思って、娘と毎朝、ラジオ体操したりしました笑。
Y:モチベーションが続かないですよね。。
K:そうなんですよ。だから、パリでレッスンをご一緒した由香里さんがロックダウンで閉じ込められてる!一人で残って凄いな、でも大丈夫かな、、なんて、勝手に心配してました笑。コンフィヌモンが明けて、研修が再開した投稿をみて、ああよかったなあ、ってほっとしてました。再開は5月くらいからでしたか?
Y:一大決心をしてパリに行ったので、帰るのもしゃくだと思って頑張りました。そう、再開は5月で、配達についていったり、スタッフさんが休む土曜日に手伝いにいったり。閉じこもってた後でしたし、なんでも新鮮で楽しかったです。何よりもおひさまのもと、外を歩けるのが本当にうれしかったです!
K:ほんとそうでしょうね~。でもそうやって乗り越えたことで、一段強くなったみたいな自信がついたんじゃないですか?
Y:そうですね、何か辛いことがあっても大抵のことは乗り越えられるな、っていう感じはあります。一皮むけたというか。帰らなくてよかったなと思います。それにコンフィヌモンで研修期間がずれたので、2月の春の花から始まって5月の芍薬、そして夏の入り口までの花を見られたのはラッキーでした。間は空いてしまいましたけどね。
コンフィヌモン中の様子は今だから笑って話せるけれど、その時はいつ終わるともわからない毎日、不安に押しつぶされそうな日もあったはず。私などは想像するだけで胃がキュッと痛くなります。そしてその日々を乗り越えた由香里さんには、初夏の日差しを浴びたパリがさらに美しく映ったことでしょう。それはきっとご褒美のような日々だったのだろうなと想像します。話を伺いながら、由香里さんと一緒に少しだけ追体験させて頂き、本当にすごいなと改めて思ったのでした。
そうしてフランス滞在後半になり、由香里さんが地方で何やら面白そうなことをしている投稿を見かけてずっと気になっていた私。次はその「農業体験」について話を伺いました!
ウーフィング
K:由香里さんのInstagram投稿で見たんですが、地方の農家さんのところに滞在しながら農作業を体験する、みたいなことをされてましたよね。何かそういう制度があるんですか?
Y:はい、ウーフィングっていうんですけど、有機農業をしている農家さんのところに、農業を体験したり学びたい人とか、もしくは多文化コミュニケーションを取りたいと思っている人が行って、お手伝いする代わりに食事と住まいを提供してもらう。そこにお金のやりとりはなくて、共に暮らして仕事して、っていう制度なんです。実は日本にもあって、世界各地にあるんですね。そのシステムを運営しているのが、WWOOF(ウーフ)っていう組織です。年会費を払って登録すると、農家さんにコンタクトがとれてやり取りできるサービスが使えます。これを使えば生活費が浮くなと思って。それに私みたいな留学生はフランス語も学べるし、栽培することにもすごく興味があったから、2か所行きました。
K:面白いですね!1か所目はどこへ行ったんですか?
Y:ホドンredon(仏語では r の発音が独特なのでルドンという表記もあり)というブルターニュ地方のコミューン(地方自治体の最小単位)で、仕事をリタイアしてパリから移住したというマダムのお手伝いをしました。特に農家という感じではなくて、小さな森を持っていて。そこで木こりが切り出した薪を運んで積み上げるっていう冬支度のお手伝いと、たぶん最近作ったであろう庭、バラの苗木が植わっているような庭の水やりや草取りを手伝ったりしました。
K:他にも誰かいましたか?
Y:いました。確かパリから来た人で、お店の販売員って言っていたかな。コンフィヌモンの間にパリの人って病んでいたというか笑、人生を見つめなおすきっかけになったらしく、それで田舎暮らし、自然的な生活をしてみたいという人が増えたみたいで、ウーフィングに来ていました。女性で40歳くらいだったかな。
K:若い方ではないんですね、それは本当に人生を見つめなおす感じですね。観光とかただのホームステイとは違う体験ができますね。
Y:そうですね、農業とか、そういう労働が嫌いでなければすごく楽しいと思います。フランスでのウーフィングは労働時間が4時間でよくて、半日で仕事は終わるんです。だから午後の時間はフリータイムで、散歩したり昼寝したり。みんな自由に過ごす感じです。車がないとどこにも行けない環境なので、都会的な遊びは全くできませんけどね笑。ここには一週間滞在しました。
K:なるほど~。それで2か所目は?
Y:次はロワール地方のシャトーダンChâteaudunというこれまたすごい田舎で。ロワール地方は古城が有名ですが、ここにも小さなお城があって、こじんまりとしたきれいな街でした。私が行った農家は麦農家で、すごく広い麦畑を持っているんですけど、もともとおじいさんがやっていたところを孫が継いで、新婚生活を始めたところで。しかもウーフィングのホストを始めたばかり、というか私がウーファー第1号でした笑。コンフィヌモン中に移ったばかりとのことで、ほんとに麦畑しかなくて。でも一部、畑にした土地があってトマトとかカボチャとか色々できてたんですね。聞いたらここはほんとに何もない土地だったんだよ、乾いた砂みたいな固い土で、でも自分たちで耕して土を作って、そうしたらこんな立派なトマトができたんだよ!って。ゆくゆくはもっと畑を広げていきたい、そしてビオの認証をとって出荷したいと言っていました。だからそこでは、農業のほんとの初めの部分、土を作ることに携わることができたんです。
K:それは今に役立つ体験でしたね!フランスと日本では少し違うと思いますが。
Y:自然環境的には全然違うんですけど、ああそうか、何もない場所ではこうやって土を作るんだ!と思って。旦那さんが庭木を伐採して粉砕して、撒いて、水をやって耕して、そうして半年、一年したらちゃんとした土ができるんだよ、って言っていました。
K:へー!日本でもそうやったらよい土ができるかもしれないってことですよね。それはいい経験ができましたね。
Y:そうなんですよ、すごく面白い経験をさせてもらいました。同世代の夫婦でしたし、とてもいい人たちで。しかも奥さんが学校の英語の先生でフランス語もすごくわかりやすく教えてくれました。
K:それはラッキーでしたね!コンフィヌモンは大変だったと思いますが、その後は充実のフランス留学だったわけですね。
Y:私にとっては大充実でした。日本に帰ってから、周りから最悪のタイミングだったねと言われたんですけど、いや~?そうでもないよ、って。
そんな風に言えたのは、由香里さんの行動力があったからこそ!花留学というと、たいていは都市に滞在して花屋さんで研修してという方がほとんどで、由香里さんのように地方まで行って農業体験する方は稀だと思うのです。積極的に、興味があることにどんどん挑戦する様子は聞いていて楽しく、こちらまでワクワク、心躍るものでした。ウーフィングでの体験が、今の育ててブーケに束ねるという活動へとつながっているんだろうなと思い、聞いてみたら、もちろん影響はしているけれど、実は原点はほかにあるとのこと。そうなんですか!?と、その「楽園」についてと、これからの夢についてお伺いしました。
楽園シュライユ
K:帰国して、農業体験もしたし土地もあるし、じゃあ育てることからやってみよう!と思って今の形を始めたんでしょうか?
Y:いや、どちらかというとシュライユに行ったのがきっかけですね。ツアーに参加して、ああ天国だと思って。
K:由美さんの会報や、最近の著書『パリスタイルで愉しむ花生活12か月』にも大きく取り上げられている郊外の村ですよね。そこに住んで活躍されているゆうさん、私はお会いしたことはないのですが素敵だな~といつも拝見していて、一度ぜひ行きたいと思っています!由美さんも良く楽園と書かれていますが、シュライユはやっぱり素敵な場所なんですね。
Y:ああもう、天国です!シュライユの長であるクリストフが何年もかけて、何もない場所に色々な木を植えて畑を作って今の形になっていると聞きました。もともとは麦農家で今もたぶん麦も作っていると思うんですが、きっかけはクリスチャン・トルチュ(由美さんも研修したパリのトップフローリスト)からもっと作ってとリクエストされて作り始めたんだそうです。
※クリストフはパリのフローリストなら知らない人はいないというほどのフォイヤジスト。フォイヤジストとは葉物、枝ものを専門に扱う業者のことだそう。シュライユについては前述の由美さんの著書に詳しいので、興味持った方はそちらをぜひ。
K:そうなんですね!由美さんの会報にも良く登場して、のびのびとした枝ものとか美しい色の葉物、良いなあ欲しいなあと思ってみています。
Y:パリのトップフローリストから信頼されてる人です。すごく優しくて、とても良くしてくれました。シュライユに初めて行ったときにお昼を一緒に食べたんですが、その時、日本に帰ったら私も育ててみたいと思っていると話をしたら、いつでもいいからまたおいで、って言ってくれて。それで後日、ゆうさんの切り出しのお手伝いに行かせてもらったんですが、それがすごく楽しくて。日本でも頑張りたいなと思いました。
K:大変そうだけど、楽しそうですね!
Y:そうなんです。それでその時に感動したことがあって。その日はシュライユでマリアージュ(結婚式)があった翌日で、人がたくさん集まっていたんです。それでお客さんの一人が花束が欲しいといったらしくて、ゆうさんに注文が回ってきたんですね。わかった、30分くらいで出来ると思うと注文を受けて、そのままゆうさんが花材を切り出しに行って、花と葉物とグラミネと採って、そのまま畑のど真ん中でブーケを作り始めたんですよ。めっちゃワイルドだ~笑、って思って。切り出したばかりで花材も新鮮、シュライユの生き生きとした花材を使ったブーケが出来上がって、ラッピングしてお渡しして、っていう一連の作業が30分くらいで出来たんですね。これってすごいことだなと思ったんです。日本の市場で仕入れる花は、早くても前日に農家さんが切り出して開花処理とかしてそれを経て市場に並ぶものがほとんどですよね。それを花屋が買って水揚げして、お客さんが買う。生産者さんからお客さんまで届くのに最短でも1,2日かかりますよね。それをシュライユではたったの30分で出来たんです。これができたらいいな、これが私の理想形だと思いました。私も幸せだし、お客さんもハッピーだよなあと。
K:それはたしかに、幸せです!シャンとしたすごく新鮮な花ですしね~。ますますシュライユに行ってみたくなりました!
Y:次にフランスにいったら絶対に行ってください!
K:絶対行きます。それで、シュライユで抱いた思いを胸に始めたわけなんですね。送って頂いたブーケ(最初の写真)、今年は長雨でお花がだめになってしまい、タイミング的に由香里さんの畑からのお花をメインに束ねて頂くことが難しかったんですよね。でも用意して頂いた減農薬栽培のバラが素晴らしくきれいでした!他にも自然な蔓とか入ってましたよね?
Y:あれは本田バラ香園さんのもので、香りのあるバラを多く育ててみえてすごく好きなんです。農薬の使用を最低限に抑えていて、肥料なんかも徹底的に管理しているそうです。だから安心して買えます。良いお付き合いをさせてもらえてありがたいです。蔓は山からのもの、アケビの蔓です。
K:そうなんですね、バラはほんと香りも良くてウットリしました。大分の自然が感じられるブーケ、良いですね。九州は花農家さん多いんですか?いろいろな農園の方とつながれると面白そうですよね。
Y:大分は、スイートピーとか、鬼灯とかあとバラ農家さんもあります。菊とかも。隣町にラナンキュラスのラックスを育てている農家さんもいるらしくて。農家さんと仲良くなれたらいいな~と思っています。でも市場制度のいろいろなことがあって、直接買うということはなかなか難しくて。
K:そうですよね。仲良くなって色々教えてもらって、自分で作るしかないですね笑。
由香里さんの今の活動の原点は、フォイヤジストの村シュライユにありました。ゆうさんがブーケを作る様子を、その光景が目の前にあるように目を輝かせて話す由香里さん。それはきっと彼女の人生を変える瞬間だったのではないでしょうか。とても素敵なエピソード、聞いていて、なんだか私まで興奮してしまいました!
そうして最初に伺ったように、少しずつ栽培もしながら、フローリストとしての活動を始めた由香里さん。ギフト以外にも幅を広げて活動されています。
K:「花があるひと」、写真撮影の花のスタイリングをされていますが、あれ凄く素敵です!
Y:ありがとうございます!あれは写真スタジオさんとのコラボなんですが、自分たちの撮影でまた新しいことに挑戦したい、生花を使ったスタイリングで撮影がしたいということで声をかけてもらいました。
K:どんな流れで撮影するんですか?
Y:一日に、この前は9組のお客様でした。事前にどんな方か写真をみせてもらってイメージを膨らませます。当日の衣装は決まっているので雰囲気とか色を合わせて花を用意して。でも、ヘアメイクは当日なので、その場で合わせながらやっている感じです。アップヘアならお団子のところに花を挿しましょうとか、ダウンスタイルなら髪に絡ませますね、とか。すごく楽しいんですけど、すごく集中して考えるので脳みそが疲れます笑。
K:ちょっと個性的で、他にない感じなのでとてもいいなと思います。ただ綺麗な花を持つだけじゃなくて面白いですよね。次の予約もあっという間に埋まったそうですね。
Y:面白いと言ってもらえるの嬉しいです。ちょっと現代的な、アート感じゃないけど、ポップだったりモードだったり、そういうのが好きな人が集まってやってるので。
K:パリスタイルとはまた違うかんじで、それもいいですよね。
Y:そうですね、いろんな仕事の幅が広がるといいなと思っています。
花仕事のキャリアが長い方なので、なんだかもう何年も大分で活躍されているように感じますが、実はまだフランス留学から帰って1年たったところ。やっと、1年間の巡りをひととおりやってみて、なんとなくわかったかな、という感じですと話してみえました。土地を耕し、花を育ててギフトとして新鮮なままお届けする。スタイリングでは個性的な表現も楽しみながら、大好きなパリスタイルを続けていきたい。そんな由香里さんの大きな夢は、大分にシュライユを作ること。皆が集える場所を作りたいですね、と。ああ、それいいなあ、と私まで夢見心地に。いつか大分にシュライユのような楽園ができる日を楽しみにしています!実は以前、福岡に5年ほど住み、その時に子供を授かったこともあり私にとって九州は第二のふるさとのような懐かしい場所。九州の自然に溶け込む大分版シュライユ、ぜひ実現して下さいね、遊びに行きます!夢のある素敵なお話を、由香里さんありがとうございました!
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