2021-06-29

パリで生きる~斎藤由美さんvol.1

これぞパリスタイル!枝ぶりを活かしたシャンペトルブーケ

シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。

パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。

第1回はパリスタイルを日本に知らしめた第一人者、斎藤由美さんにたっぷりお話を伺いました。2回に分けてお届けします。

在パリ20年の道のり

美しいパリの街並み

長野でフラワーアレンジメント講師として活動していた由美さんは、ある日雑誌で見た花にくぎ付けになりました。それはクリスチャン・トルチュというパリのトップフローリストの作品。ぜひこの人の下でデザインを勉強したいと決意、単身パリに渡り、半年の交渉の末ついに念願かなってトルチュ氏の店で研修を始めました。初めは花瓶を洗い、花を配達するといった下働きばかりこなしていたそうですが、働きぶりが認められ、次第にディスプレイや制作を任せてもらえるように。その後店を移り、五つ星ホテル・リッツの全館装花という、簡単には就けない仕事も経験されました。次第に日本からの旅行者へのレッスン、見どころの花屋など案内する街歩き(ヴィジット)等の依頼が増えたこともあり退職、フリーランスとして現在はトルチュの元同僚、ヴァンソン・レサール氏の花店「ローズバッド」でのレッスン、花の勉強をしたい日本からの研修生受け入れ、ヴィジットなどを展開されています。日本のファンに向けて、web会報でパリのリアルタイム情報発信も。また雑誌などでライターとしても活躍、7月には5冊目の著書『パリスタイルで愉しむ 花生活12か月』が出版されます。

私が由美さんを知ったのは、以前所属していたプリザーブドフラワー協会の理事が書かれたパリレポートでした。協会幹部の方たちがレッスンを受け、ヴィジットに参加する様子を見て、こんなすごい人がパリにいるんだ!と、そこから由美さんのブログを読み始め、そしてすっかり、そのスタイルの虜になってしまったのです。シックなパリ色の花合わせ、自然な、それでいて美しく作りこまれたデザイン、、。シャンペトル(田園風)という言葉を、いち早く日本に紹介したのも由美さんです。2015年に初めて一時帰国イベントに参加、そのお人柄にも魅了されました。その後、由美さんのデザインを学べるディプロマコースができたことを知り、家族の理解と協力を得て大阪に一年通い、第二期生として修了。そこからパリスタイルフラワーレッスンを始めて今に至ります。

初めての一時帰国イベントで圧倒されたグランブーケ!

師匠と仰ぐ由美さん、前述したように花のデザインが素晴らしく、これまでの日本ではあまり見ない形です。どのように確立していったのでしょう?それがどうしても知りたくて、まずはそのデザインの秘密から伺ってみました。

スタイルを持つこと

ドキドキしながらzoomで繋いだ画面の向こう、穏やかな声でパリの様子など伝えてくれる由美さんの笑顔に緊張がほぐれていくのを感じます。さあ、せっかくの機会だからいっぱいお話を聞こう!と、まずはデザインについての質問からしてみました。

ディプロマレッスン、初夏のコンポジション。

加納(以下K):ディプロマコースで習った3パターンのデザイン(シャンペトルブーケ、ブーケドマリエ、コンポジション)ですが、今までにないデザインで初めて見た時には衝撃を受けました。あのデザインは、やはりトルチュ氏からインスピレーションを得たのでしょうか?

由美さん(以下Y):そうです。でも私がパリに渡った時には、クリスチャンは経営のほうに注力していて、店頭に立って制作することも少なくなってたんですね。だから、正確にはトルチュのスタッフが教えてくれたデザインがもとになっています。でもそれは、クリスチャンのディレクションによるものですから、やはりトルチュで習ったものがベースになっていると言えますね。

K:なるほど。それをもとに、例えば2本ひと組で使う、高低差、透け感といったパリスタイルを作るうえで重要なメソッドを、仕事をこなしながら構築していった?

Y:パリに来て最初に入った花の学校では、クラシカルなデザインを教えていて私が習いたいものでは全くなかったんですね。彼らが店で普段作っているようなブーケを習いたいのに、ヴァンソンも、ブーケなんて何を教えるの?といった感じで。日本人の私の感覚とはずれがありました。私はフランス人と仕事をしてきて彼らの感覚もわかるし、日本人の求めるものもわかる。だからフランス語を翻訳して伝えるだけでなく、普段の仕事からわかるスタイル、どうしてそうなるかという事も説明して日本の方のニーズにこたえる、ということをしていきました。その中で伝え方を工夫して今の形になっていったので、そういった意味では私のデザイン、私のものになっているかなと思う。

K:きちんと言葉で表現できるからですよね。オンラインレッスンでも、画面越しにどうやって伝えるかいろいろ考えてしまいます。

Y :擬態語多いよ!パーンて来て、ポーン!みたいな笑。あとはゼスチャーも使って。でもレッスンに来てくれた方から、この先生は言葉で説明できるのが素晴らしいと思った、という感想も頂きます。日本も含めて30年近く教えている経験もあると思う。

K:積み重ねですね。

あこがれの店の戸をたたき続け、ついに切望していた学びの場に立った由美さん。それだけでもう満足してしまいそうなのに、そこで学んだことを昇華させアウトプットすることで、自身をさらにアップデートされていったわけです。教えることが得意で好きだから、とさらりとおっしゃっていましたが、なかなかできることではありません!どう伝えるか、どう表現するかを工夫すること。それを考え続けたからこそ、今のデザイン、スタイルが出来上がり、私たちがそれを日本でお伝えしている。由美さんのこれまでの道のりに、背筋が伸びる思いです。

パリレッスンでは撮影も楽しい!!

K:インタビュー前に由美さんのブログを最初から見返してみたのですが、始まりは2010年、そのころからすでに3つのデザインは完成されていました。今も基本ラインは変わらず、でも全く古びてなくて斬新だし美しく感じます。美しいと思うものの軸がぶれなくてそれは本当にすごいことだと思います。レッスンを長くやっていると、私なんかはちょっと違うことをやらなきゃとか思ったりしがちなんですが、そういうことはないですか?

Y:基本はこの3デザインですが、常連の方には投げ入れやキューブのリボンワーク、グラフィックブーケなど違う形もお伝えしています。工夫やアップデートは必要ですが、流行りすたりではなく「スタイル」だから古びない。シャネルのようにね。そこまでもっていきたいと思っています。それと毎年の季節が回ってくる喜びとともにやってますから。また芍薬の季節が来たねー!って喜び合うような。毎年新鮮で、飽きないよね。季節を大切に、季節を感じる。そんなエスプリを伝えるのも仕事だと思っています。

ディプロマコース、由美先生直接レッスン。季節の花がふんだんに。

ああ、それはよくわかります!花で季節を感じる喜びは、私がパリスタイルで素晴らしいと思うことの一つで、最もお伝えしたいと思っていることです。例えば、早春に咲くすみれを見つけた時のときめき、初夏の瑞々しい葉を透かして光る木漏れ日の美しさ。燃えるような紅葉、立ち枯れた冬の木立の静謐な空気。そういったものをパリスタイルでは花の中に表現していきます。そしてその変わらない美しさを由美さんがぶれずに伝え続けていてくれていることで、私たちも自信をもって日本でレッスンできている。パリのエスプリを発信して私たちに届けてくれる、由美さんの存在の大きさを改めて感じました。

いいと思うデザインを突き詰めてスタイルとし、そしてそれを伝えることを仕事にされている由美さん。伝える場はレッスン、ヴィジット、web会報、本の執筆、そしてSNSと多岐にわたります。その中には由美さんが最初に始めたものもあり、由美さんの「仕事を作り出す」チカラに感動すら覚えてしまいます。どうやって思いつき、そして形にしていったのでしょう?仕事を生むという事についても質問してみました!

まずはやってみる!

憧れのローズバッドでヴァンソンレッスン。由美さん撮影。

K:パリでのご自身のレッスンやフランス人トップフローリストのレッスンオーガナイズ、街歩きツアーといった、パリを訪れる日本人に向けてのものに加え、SNSをうまく利用して会員向けのweb会報など配信されています。今はたくさんそういったサービスがありますが、それらは由美さんが最初に始められた、といってもいいと思うんですね。それは要望に応えて始めたものなのでしょうか?

Y:要望はありました。パリに来て高いお金を払ったレッスンが思ったものと違ったとか、言葉の問題など相談されることが増えてきて。じゃあ私がレッスンをしましょうか、市場にも案内しましょうか、とご希望に応えていきました。でもボランティアではやらない。最初はお試し価格、とかありましたが、あくまでプロとしてお仕事として受けていました。いち早くニーズをとらえて、お金をもらえるレベルにもっていくことが得意。それと日本で勤めたことがないので日本の常識にとらわれないで、びっくりされるようなアイデアが出せるんだよね。ひらめきがある。そして人のまねは絶対にしない。二番煎じは嫌。そこはプライドがあります。パリは前例がないからどんどんやっていけたし、求められもした。パリだからできたというのもあります。あとはスタートダッシュが早い。うまくいくか考える前にぱっといっちゃう。やりながら変えていく感じ。

一番に始めるって本当に大事だと思います!でも言うは易し行うは難し。単身パリに渡り、まわりにはお手本になるような日本人はいなかったという由美さん。全てご自身で思いついて、それを形にしていったわけです。ひらめく力、そしてそれを形にしていく実行力。パリというアウェイの地で生き抜いてきたたくましさ、強さをひしひしと感じます。

K:パイオニアですよね、ほんとすごいです!でも例えば、これは失敗したな~ってことはありますか?

Y:失敗したことは、、何だろう。そう、資材の買い付け代行とかダメでした。梱包とか関税手続きとかそういったことがストレスですごく消耗して、もうやめようと思った。あとはYouTube。とりあえずやってみるけど、違うと思ったらひゅっとひいちゃう笑。でもそれくらいかな。好きなものと嫌いなものがはっきりしている。人を案内するのは好きで街歩きツアーという形になったし、自分の好きに結びつくものなら大体うまくいきます。

街歩きツアーでは裏道案内も。

ブログにも、当初から「人に伝える仕事がしたい」と書いておられました。そうやって自分は何が好きなのかを見極めて、そしてそこから思いついたアイデアをすぐやってみる。やりたくないもの、違うと感じるものは、たとえお金になったとしてもやらない。そのきっぱりとした姿勢は小気味よくて、かっこいいなあと思うのです。そして、そうやって取捨選択できることが、成功のヒントなのかもしれないと感じました。

自身で生み出した仕事を発展させて、パリで自立してきた由美さん。「経済的に援助を受けたことは一回もないから!」と語る姿は誇らしげで、キラキラしていました!

K:自分がしたいことをどんどんやるから上手くいく、という上昇のスパイラルですね。でもそれはパリで大変なことを乗り越えて頑張ってきたから出来たことですよね。

Y:まあそれは日本にいても同じで、乗り越えることはいっぱいあるから、私だけがすごいわけじゃない。例えば親の介護とか、自分でなんとも出来ないことをちゃんと続けていることは素晴らしいと思う。

K:向き不向きはありますよね。誰もがパリで一人生き抜ける強さがあるとは思えないです。

Y:私にもできないって思うことはいっぱいあるから。向き不向きを認識することですね。そうすると他の人が気にならなくなる。だって個性が違うから。見えないだけで、うまくいっている仕事の裏には何かあるかもしれない。人と比べないことです。私は自分で選んでここにいる。その道で幸せを得られている。自分の向いているところで力を発揮できていたら満足だし、人とは比べない。

自分で選んだ道で、幸せを得られている。その言葉にハッとしました。たいていの人が、自分自身で選んだ道を歩んできていると思うのですが、今幸せだと言い切れる人がどれくらいいるだろう?と考えてしまったのです。でも、そうやって自問自答を繰り返し、試行錯誤していくことで自分というものが見えてくるのかもしれない。由美さんもきっと、そうして今の幸せにたどり着いたに違いない!そんな風に思いました。

ランジス市場で見つけたすみれの花束

よどみなく、まっすぐに話す由美さん。パリでの成功は全てご自身で切り開いてきたもので、ただただ、凄い人だな~!と、口を開けて聞き入ってしまいそうになります笑。でもそのお話の中には、私たちが人生を歩んでいく上できっと役立つだろうことがちりばめられていました。インタビュー後半では、そうやっていつもポジティブに頑張れるのはなぜなんだろう。その原動力はどこから?という質問を皮切りに、自分らしく生きるために由美さんが心がけていることを伺いました!

vol.2 に続きます。

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