2021-07-06

自分を知る~斎藤由美さんvol.2

どこから見ても美しいコンポジション

シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。

パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。

第1回はパリスタイルを日本に知らしめた第一人者、斎藤由美さんにたっぷりお話を伺いました。こちらは後編です。

努力したら、道が開けた

インタビュー前半では、由美さんのフラワーデザインの秘密と、仕事を生む、という事についてお話を伺いました。よどみなくまっすぐに話す由美さんからは、ポジティブなパワーを感じます。どうして、いつもそんなに前向きでいられるんだろう?その原動力についてお話を伺いました。

K:どんどん新しい道を切り開いてきた由美さんは、本当にパワフルですごい!と改めて思いました。辛いこともたくさんあったと思うのですが、ここまでやってこれたチカラの源、原動力は何だと思いますか?

Y:まずはトルチュに入りたかった気持ち。入るまでに半年くらいかかったのだけれど、その間、日にちだけが過ぎていく焦り、家族を日本においてまで来たのに、何をやってるんだっていう思いもありましたが、だからこそ絶対にあきらめなかった。他の店に行くことも頭をかすめたけど、やっぱり違うと。世代もあると思います、欲しいものがはっきりしていて、頑張って働けば手に入れられるっていう時代でしたから。叶えるまでの努力は苦じゃなくやるし、どうしても欲しいものはあきらめない。性格もあると思いますけどね。

紫陽花のシャンペトルブーケ。ディプロマレッスンより。

あきらめない心。実はディプロマレッスンでも、これは合言葉のようになっていました。太い枝の大きなブーケが課題としてあった時、もう無理、持てません~!と思っても、「あきらめない心!」と唱えると不思議と力が湧いてきて、最後まで束ねきることができるのです。ディプロマ修了後も、日々の生活の中であと一歩を頑張らせてくれるお守りの言葉として私を支えてくれています。これは日本でのディプロマコースレッスンを任されている由美さんの右腕、金山幸恵さんからかけられた激励の言葉でしたが、そうして最後まであきらめないでやりきることで自信がつき、さらにまた頑張れる、という良い循環を生みだしてくれています。ディプロマレッスンは道場とも呼ばれていたのですが、花と向き合うと同時に、自分とも向き合う時間だったと思い至りました。

K:初めはトルチュで働きたいという思い、それが叶ってからも次々に目標を見つけて頑張ってきたという感じですか?

Y:念願かなってトルチュに入れて、めちゃくちゃ頑張って働いて認めてもらえて、楽しくて仕方がなかった。でも次に、滞在許可の延長という問題が出てきたんですね。トルチュでは許可が取れず、そうしたら元同僚が移った店のオーナーが私の働きぶりを聞いて興味を持ってくれて、店に来ないかとスカウトしてくれた。滞在許可も取ってくれて。そこでも一生懸命にやって、でも自分のレッスンが増えてきてどうしようかと思っていたら、レッスン場所を貸してくれる人が現れて、フリーになり、ローズバッドもオープンしてそこでレッスンもできるようになり。何かに導かれているようでした。その場で一生懸命やっていたら、道が開けていた。

K:由美さんの一生懸命さが、道を切り開いたのですね!

Y:そうだと思うよ~。でも頑張るしかないよね、私が居たくてフランスにいさせてもらってるわけだから、貢献しないとね。

う~ん、すごい!色々と大変な異国での生活の中で、貢献というワードはあまり出てこないと思うのです。由美さんの長年のビジネスパートナー、ヴァンソン・レサール氏も「由美は惜しみなく与える人」と、由美さんの3冊目の著書『ブーケシャンペトル・ア・ラ・メゾン』の前書きで述べています。個人主義のフランスにおいて、自己主張の強さは必要なことでしょうが、周囲への気遣いや優しさは人の心を打つものです。あきらめずに頑張る強さだけでなく、優しさや感謝の気持ちを忘れないからこそ道は開け、パリでの成功につながったと思うのです。

パリの朝

フランスから引き揚げて、日本に戻ろうと考えたことは一度もないと言う由美さん。パリ帰りなんていっぱいいるから、日本では私、商品価値ないと思うよ~と冗談めかして語りながらも、そうやって自己分析できているところ。いつもユーモアたっぷりにお話をしてくださるのですが、地に足の着いた冷静さも感じます。そんな由美さんが、最も大切なことだと言う「自分を知ること」についてお話を聞いてみました。

自分の好きを見極める

個性的なパリのショップディスプレイ

休日もレッスンを開催するなど仕事に充て、がむしゃらに働いてきた由美さん。でも転機が訪れます。五つ星ホテル・リッツの全館装花の仕事は楽しく、とても良い経験になったそうですが、少しずつオーナーとの考え方の違いや、休日も返上するような働き方に疑問を持つように。レッスンやヴィジットの依頼が増えていたこともあり、退職してフリーランスへと転向したのでした。

K:退職するということは安定収入がなくなるという事。不安はなかったですか?

Y:一人で住んでたらそんなにお金もかからないし。日本でもずっとフリーランスだったけど貯金もできてたから、不安は全くなかったですね。何とかなるし、何とかすると思ってた。

K:何とかなる、何とかすると思えるところがすごい。自分に自信を持つというか、自分は大丈夫と暗示をかけて、行ける!と自分にはっぱをかけることも必要だと?

Y:好きなことならできるんじゃない?本当に自分がやりたいことなら、あんまり上手くいかないかも、とか考えないでしょ。だってやりたいんだもん。

K:確かに、やりたいという部分ではそうですね。

Y:そうでしょう?そっちに進みながらお金にする方法を考えていけばいいことだよね。私はそこは得意で、自分がやりたいこと、かつみんなが喜ぶことを提供してお金を得ることに長けていると思う。web会報も、誰もやってない頃からやってるしね。でも大きくなりたい願望はなくて、例えば中身も見ないで新刊の予約をしてくれるようなコアな仲間と、狭くてもいいからその中で良い関係を築きたいと思う。みんな、うっかり大きくなろうと思っちゃうんだよね、でも誰もがそれが合うとは思えない。結局、どんな状況にいれば自分が心地いいかを知れば、他の人がうらやましくなることはないよね。

自分の好きなことをやるのは、趣味程度であればそんなに難しいことではありません。でもそれで収入を得ていくとなると、ちょっとした戦略が必要になってくると思うのです。スタイルを貫いて継続していく部分と、アップデートして変化させていく部分。目の前の仕事をがむしゃらに頑張りながらも、常に自問自答して模索していく探求心。泥臭さと、賢さ。由美さんはそれらをバランスよく持ち合わせている方だと感じます。

パリレッスンのシャンペトルブーケ

K:最後に、第二の人生を目指す人、これから社会へ出る若い人へのメッセージをお願いします。一歩踏み出したいときには何が必要で、何が大切なことだと由美さんは思いますか?

Y:まずはやっぱり、自分の好き、向いていることを見極めることですね。何がしたくて何が欲しいのか。逆に、自分には何がいらなくて何が向かないかを把握すると、変なところに足を突っ込まなくて済むよね。苦にならずに続けられることを見つけて、そこに情熱を注ぎ続けることです。

自分を知ることとは、自分のプラス面だけでなくマイナス面とも向き合う事でもあります。目をそらさずに自分の弱点を知り、それも自分だと受け入れること。または、弱点と思えることも、実は強みかもしれないと見方を変えてみたり。好きなことならできるんじゃない?と言い切る由美さんには、自分の弱さもすべて呑み込んで、それすら力にしてしまう強さを感じます。

Y:人がやっていないことをやる、というのも大切です。今はチャンスですよね。コロナで既存の価値観や仕組みが崩れて再構築されているところで、これまでになかったこともやりやすくなっていると思う。例えば今、パリではお弁当ビジネスが熱いのですが、いち早くニーズをとらえてお弁当用の器を作って売り出した会社が大当たりしている。勇気をだして、一歩先んじることができた人が成功しています。

K:勇気、必要ですね。

Y:うん、でもその勇気の下敷きになるのはやりたいか、やりたくないか。やりたいことには勇気が出るけれど、自信がないこととか、突き詰めたらやりたくないことには勇気は出ないよね。あとは、自分のためだけじゃなくて人に役立つこと、人を楽しませることができれば上手くいくと思う。私もパリに来て、最初から何者かになろうと思っていたわけじゃなくて、好きなことを一生懸命やっていたら喜んでもらえて、仕事につながって、今の私がある。あんまり先回りして狙わないこと。一生懸命やっていたら道は開ける、神様は見ているんですよ。自分がやりたいことというのは、自分なりの表現法。そこを突き詰めていけば何かになるんじゃないか、そう思って私は生きてきました。

自分を知り、心からやりたいと思うものを見つけること。いち早く勇気を出してやってみること。そしてそれは誰かを喜ばせるものであること。たった3つのことに要約してまとめてみせた由美さんですが、そこにはこれまでの道のりがギュッと凝縮されています。そして「やりたいことというのは自分なりの表現法」という言葉が強く印象に残りました。それは決して自分をひけらかすことではなく、内側から湧き出てくるもの。日々、暮らしていく中で自然に行っていることだと思うのです。例えば家族や友人にふと話すこと、毎日のご飯、ドラマや本に感動して流す涙。。そんな小さなことの連続で、人生は紡がれています。だからこそ、その日々の小さな選択の中に、自分の好きや少しのチャレンジを織り込むこと、そして誰かを喜ばそうと工夫することが、よりよい人生、そして私なりの成功へとつながるのではないか、、そんな風に思いました。まずは小さな一歩から。そこからきっと、始まります。

由美さんはパリで、私たちは私たちのある場所で。それぞれの成功、それぞれの幸せをつかみ取りましょう。そんなあたたかな励ましのメッセージにみちたインタビューでした。由美さん、どうもありがとうございました!

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