2021-08-03

対話する感性~金山幸恵さん

オンラインレッスンブーケ、最高にかわいい!

シックな花合わせに魅了されて飛び込んだ、パリスタイルの世界。花の学びと共に、そこに集う素敵な人たちとのご縁は私の中で大きな宝となっています。

パリスタイルで出会った人はどうしてみんな魅力的なのかな?日々、どんなことを考えながら過ごしているんだろう。ぜひ聞いてみたい!そんな気持ちが高まって、インタビューをお願いしました。思った通りワクワクするお話ばかり!皆さんにもぜひ、そのエッセンスをお伝えしたいと思います。

第2回は、パリスタイルを独自の感性で伝える金山幸恵さんです。

なにわのパリ

OLから大手花店勤務を経て、パリ花留学を果たし、第1回で登場頂いた斎藤由美さんのもとで研修をされた幸恵さん。おっとりと大阪弁で話し、穏やかな雰囲気を纏っていらっしゃいますが、花と向き合うと、すっと真剣なまなざしに。幸恵さんは花店勤務時代、数店舗を束ねるチーフまで務めていたという方で、由美さんの信頼も厚く、由美さんのスタイルを学べるディプロマコースを日本で唯一、教える方でもあります。パリ留学から帰国したのちはレッスン主体の花仕事を開始。現在は大阪そして東京にアトリエを構えてレッスンをされており、どちらのアトリエもセンスあふれるインテリアと美しい花のしつらえに、行くたびウットリ。大阪のアトリエは、親しみと憧れをこめて「なにわのパリ」と呼ばれています。

私が最初に幸恵さんに会ったのは、初めて参加した由美さんの一時帰国イベントでした。その時に思い切って話しかけて花器のお薦めを質問し、購入したヘンリーディーンの花瓶は今も大活躍しています。初めて受けたレッスンはなんとYumi SAITO Parisディプロマレッスン。道場ともいわれていたディプロマレッスンは毎回、緊張と集中の疲れでへとへとでしたが、新幹線に乗ってわざわざ通う価値のあるものでした。同期と励ましあいながら乗り切った一年間は、大きな糧となっています。ディプロマ後はブラッシュアップのレッスンに通っていましたが、コロナ禍の今はオンラインで受講しています。今回は、そのオンラインレッスンを受けながらお話を伺った模様をお届けします!

レッスンブーケの花合わせ

幸恵さんのレッスンの魅力は、テクニックの高さはもちろんなのですが、その花合わせに毎回、心ときめきます。私自身パリスタイルのレッスンを始めてから、市場で花を買う時には幸恵さんの花合わせを参考にすることも多く、そしてそれはどんどん進化している印象です。レッスンを受けるたびに新鮮な驚きを覚える、花合わせの秘密について伺いました!

幸恵さんのセリフはぜひ大阪弁に変換してお読みください笑

それぞれの表情を活かして

加納(以下K):今回のレッスン花材について、まずはどんな風に選んだのか教えていただけますか?

幸恵さん(以下S):今日のお花は特に決めずに市場に行きました。そうしたらまず目についたのが、この鈴木源八さんの紫陽花なんですけど、彼の花が大好きなんです。

K:鈴木さんから直接買われてるんですか?

S:ううん、市場に出荷されてるものです。大田市場にも出てなくて、世田谷市場のたぶん一軒の仲卸さんでだけ買える。出荷量も少ないんです。最初に出会ったのはミモザ。見ればすぐわかるくらい、どんなにものが良いと言われるものでも、並べると源八さんのものが断然いい。それが出会いで、2,3年前くらいから紫陽花も出てきて、持ちもいいし6月くらいから瑞々しいものが出回るんです。今回のはそれが立ち枯れたもの。7月に源八さんの紫陽花を仕入れたのは実ははじめてで、あるのは知ってたけど、紫陽花イコール初夏、または秋色紫陽花、と思っていたから。だからレッスンに登場することは今までなかったけど、昨日、仕入れにいったらバーン!って、もうロックオンって感じで。他も見てみたけど、やっぱりこの時期ならでは、初夏の瑞々しさから秋に向かう感じ?色も、このシミの感じとか。ほんで今日は葉っぱもきれいじゃないですか。だから今日はほかに葉っぱ入れるのやめたんです。その葉っぱを活かしたい、他に葉っぱ入れてしまったらそれが葉っぱとして目につくから、やめたんです。その色合い、微妙な色合いと質感を邪魔したくなかったので、同じような、まだ瑞々しさを残しつつ種ができているキャロットソバージュ。アキレア(ノコギリソウ)はチャレンジ花材です。

K:アキレア、そうですよね!花材見て、え!珍しいの来たー!って思いました。

S:そう、、そうなんです。心惹かれるものを素直に手に取ろうと最近は思っていて。昨日、その紫陽花と何を合わせようと思ったときに、そのノコギリソウとめっちゃ目があったんです。あ~、可愛いな、と思って。他に葉っぱも入れないし、その名前の由来にもなってるのこぎり型の葉っぱを上手く使えたらいいなと思って。それぞれがすごく表情豊かな三種類。

K:めっちゃ花材シンプル、と思いました。私も、最近さらに種類を絞ったシンプルなブーケに惹かれるので、この花材を見た時はうれしかったです!

S:その野ばらは、先週のなんですけど、ふと目についてアクセントにいいかなと思って。最近、ちょっと遊んでます。野ばらもわざわざ買ってたら、2本3本入れてたと思うんですけど、一本だからいい仕事すると思うんです。だから、今日のレッスンのポイントは整えない、不ぞろいの面白さ。色もそろわないし、紫陽花の質感もそうやし、キャロットソバージュもソバージュやし(ソバージュは仏語で野生の、といった意味)。野ばらの先端の何もついてない茶色い枝というのがまたいい仕事してると思う。キャロットソバージュもちょっと黄色くなってるようなのも使いたい。

K:あまりきれいにしすぎないということですね?

S:そう、最近の私のブームはちょっと野暮ったいの。ちょっと野暮ったいけどめっちゃええやん、っていうのがマイブーム。レッスンではあんまりしてないですよ、ちょっと難しいから、ほんまに野暮ったくなってしまうから笑。一周二周まわって、ちょっと懐かしい。アキレアもそんな感じなんですよ。

K:お洋服でいったらギンガムチェックみたいな?

S:あ~、そうそう!なんていうんでしょう、昔からあるけど決して古いわけではなく。昔からあるというだけで、古いというカテゴリーに入れてしまうのは少し寂しいというか。

幸恵さんのレッスンでは、まず花合わせについて必ず話を聞きます。彼女ならではの感性からうまれる表現は時に独創的で、習う私たちは想像力を働かせてそのイメージに近づいていきます。そんなレッスンの過程はとても面白くて、束ねたブーケはいつも本当に素敵。そして、幸恵さんがそれぞれの花材をしっかりと見極めて伝えてくれるチャームポイントは、恒常的なものではなく季節やその日で変わるもの。今回、紫陽花の葉っぱのシミや虫食いも魅力のひとつに挙げていましたが、それは今だから魅力に思えるポイントなのです。そして、それを活かすような束ね方をするから美しい。印象に残ったのが、キャロットソバージュの根元に近い枝分かれの二股が丸見えになる束ね方は品がない、と言われたこと。キャロットソバージュの心の内というか、体全体をバンと見せてしまうのは恥ずかしいんですよ、という表現をされていましたが、植物に寄り添い細部にまでこだわることが、幸恵さんの花合わせの魅力をさらに引き立てているのかもしれません。束ね方も、花合わせを引き立てる重要なポイントともいえるのです。

出来上がりのすばらしさは写真でご覧頂いた通り。最初に言われていた「不揃いの面白さ」がうまく表現できているように感じます。頭にあるイメージを形にするのは難しいのですが、きっちり決めてくるのはさすが!と毎回唸ってしまいます。もっと、その魅力に迫りたい!今回のオンラインレッスンでは、幸恵さんのデモンストレーションもお願いしました。デモをしていただきながら、さらに花合わせについてお話を伺いました!

禁断のバラ

イエローローズ、アキレア、キャロットソバージュ

S:禁断の黄色いバラ、しかもスタンダード咲き。レッスン花材とリンクさせたアキレアとキャロットソバージュでやってみます。

K:えー!!びっくり!

S:え~ですよね笑。これも、デモだから出来ること。私の中のチャレンジで、いきなりレッスンでは無理ですね。

K:じゃあ今日はこの禁断の花材で遊んでみようっていう感じですね。

S:そう、遊んでみます!

由美さんや幸恵さんのパリスタイルでは、使う花とあまり使わない花とがはっきり決まっていて、スタンダードローズを積極的に使うことは今までほとんどなかったと思います。なので、花材を見てとても驚きました。そして、この変化を生んだのは何なのか、幸恵さんの心境の変化はどうして?と好奇心がムクムク。デモブーケを束ねて頂きながら、さらに聞いてみました!

K:私たちディプロマ生は特に、由美さんの花合わせがとても気になります。幸恵さんもやっぱり意識されてますか?

S:ディプロマレッスンでは、もちろん意識してます。由美さんが好んで使わないものは使わないです。でも出会った15年ほど前の由美さんの花合わせと、今とでは少し違ってきてるんですよね。由美さんが進化しているのに私だけ留まってるわけにはいかないと思う。ディプロマは基本的には由美さんの花合わせでやりますし、迷ったときは由美さんのInstagramとかは良くチェックしてますね。

K:なるほど。でも幸恵さんご自身のレッスンに関しては、幸恵さんの感性で選んでいるってことでしょうか。

S:そう。そこは逆に由美さんに寄っていくのもおかしい。私の延長線上に由美さんがいるわけではなく、私は私としてやってるから。じゃないと、来てくださる方に申し訳ない。由美さんのほうを向いてやるんじゃなくて、私が向くべきは来てくださる方だからね。そこは大事にしてます。

長く一緒に仕事をしてきたからこそ、影響もたくさん受けているはず。その中で線引きをしてレッスンするのは難しいことだと思うのですが、でもしっかりと自分のスタイルを持っているからこそ、良いバランスで両方をこなせているのかなと感じました。そうして話しているうちに、ブーケを束ね始めた幸恵さん。デモブーケについて伺いつつ、さらに幸恵さんの感性を育んだものについて探ってみました。

K:バラは最初に持たないんですね。

S:そう、バラはまだです笑。やっぱり束ねる順番で主役も決まるというか。今日は禁断のスタンダードローズですが、バラがいい悪いと思ったというよりは、この黄色がいいなと思って選んだので、バラが主役というわけではないかな。

K:アキレアの花の中心が少し黄色いから合うんでしょうか?

S:あ、それもあるかも。私、主役の花から決めるわけじゃなく、かといって主役から選ばないと決めてるわけでもなく、何も決めてない。目が合って、さらに話しかけてくる子。会話が始まる子から、あ、そうなん?と思ってそこから広げていく感じ。良く花合わせいいですよねって言われるんですけど、秘訣とかほんとに無くて。

K:植物と会話する、話しかけられるっていうのは、他の人にはわからない、伝えるのが難しい感性の部分なのかなと思います。

S:わからないと思います。

K:そういう感覚は、お花を始めてからのものですか?例えば前から、景色とか美しいものを見た時に同じような感覚はありましたか?

S:あ、それは前からあります。結構、感動しいです。みんなさらりと流すところをいつまでも立ち止まってウットリしていたり。私はあんまり自分を表現するのが得意じゃない。言葉でも得意じゃないし、だから喜びとか悲しみとか、自分の中で完結しがち。「めっちゃ綺麗、見てみて!」とかあまり言ったりしないですし、逆に人に言われても響かないんです。例えばきれいと思った絵の前でじっと見てて、そんで勝手に物語作って自分でその中に入り込んだりしてます。由美さんは私のことをメルヘンっていうんですよ。でもそれは自覚あります。私の中にメルヘンタイムっていうのがあって、待ち合わせに向かう途中でも突然メルヘンタイムに入ってしまうから遅れがち。信号待ちで目に入った向日葵が、めっちゃ頭もたげてるな~重そうやな~とか見始めてしまう。だから早く出てもいつも遅刻するんです笑。

K:いろいろと目に留めてしまうんですね。

S:そう、それは目だけじゃなくて匂いもそうだし、触った感じとか。木とか石とか気になったらめっちゃ触ります。

ちょっと変わってるかもね、と笑う幸恵さんですが、その心にひっかかる小さな何かをそのままにせず、五感を働かせて感じようとすること、その積み重ねが幸恵さんの感性を育てていったように思えます。彼女にとっては自然で無意識にやっていることなのでしょうが、そうやって小さなサインを見逃さないようにすることは、もしかしたら私たちでもやれることかもしれない。それができたら、私も幸恵さんのように植物と会話できるかも。そうしたらどんなに楽しいでしょう!

K:目に留めたものの中で心に残ったものから、例えば色合わせなんかもこれがいいな、と思うものができていったんですよね。特に勉強したわけではなく。

S:はい、色合わせ、花合わせなんかは特に勉強したという事はないです。でも、レッスンで説明していく中で気が付いたことは、私は質感が好き。色、形だけじゃなくて質感にとても心惹かれて選んでいます。

K:こういう質感が好きと決まっているわけではなく、その時にいいと思うものを手に取る感じですか?以前、キイチゴの葉っぱがツヤツヤしすぎていてあまり好きではないと伺った記憶があります。

S:そうですね、その時にいいと思うものですね。でもキイチゴは今もやっぱり好きじゃないし買わないです。たぶんそれは、パリが好きだからかも。パリの街並みにあのツヤツヤは合わないと思うし、だから私もあまり心惹かれないのかもしれない。

やはり、パリは幸恵さんのなかでも大きな部分を占めているよう。確かに、ちょっとくすんだグレーでシックな街並みに、つやつやの葉っぱは浮いてしまいそうですね。石造りの建物、石畳の質感とそぐわない感じです。

そうして話すうち、デモブーケが出来上がってきました。あと一歩で気に入る感じになると言いながら調整を重ねてみえます。

S:久しぶりに使う剣先咲きのバラと、コミュニケーションがうまく行ってないです。会話ができてなくて、お互い一方通行。でも、もうちょっといじってたらいい感じになると思う笑。。市場に行くと、お花屋さんとかガンガンお花を手に取って買っていくんですよね。全然、見てないんですよ。私には考えられないです。ちょっと挨拶くらいしいやーって思う笑。私はめっちゃ見ます。ぱっと見みんな同じに見えますけど、全然違うし、そこにあるもの全部をよく見ます。そんな無感情では手に取れないです。私の花合わせがいいと言ってくれたり、ブーケが素敵といってもらえますけど、そこにはなんの秘訣もテクニックもないんです。でも唯一私が負けない、私だけの強みがあるとしたら、私だけの植物との世界、植物とのやり取りかもしれない。だからこそたぶん、真似はできないと思う。私だけのやり取りだから。

K:それはレッスンでも伝えるのが難しい部分ですね。

S:そうなんですよ、、難しい。できるだけシンプルに、そぎ落として伝えてます。市場ではとにかくこだわって選びます。なんとなくでは絶対に選ばないし、あきらめない。葉っぱ一枚、枝の先端まで一つ一つ見て、これだ!と思う子が入っている束を買います(注:市場では基本的に10本単位などの束で販売されている)。仕入れに関しては、由美さんが「この人、本気で死ぬ気で仕入れしてる」って言ってくれましたけど、確かにそれくらいのエネルギー量で植物を見てます。

伝えるのが難しい感性の部分。でも、丁寧に植物と向き合うということは真似ができそうです。めっちゃバラ喜んではる、可愛い、だいぶ愛着がわいてきました!と、徐々に今日の花材とも会話し始めた幸恵さん。そうして出来上がったブーケは想像をはるかに超えて素敵で、今まで禁断の花材だったスタンダードローズが一気に魅力的な花材に思えたのです。ディプロマレッスンで繰り返し言われたこと、「花材をよく見て。枝ぶりや佇まいの素敵さを活かすところにいれてあげて」ということの大切さが、ああ、そうか!と、またひとつ理解できたように思いました。

インタビューのお礼にとわざわざブーケを送って下さり感激。そのお人柄にも惹かれます。

今日のキーワード「野暮ったさ」が絶妙に表現されたブーケでした!

最後にお聞きしたのが、パリに行けない今、何か意識してやっていることはありますか?ということ。その答えは、幸恵さんらしくとても前向きなものでした。

囲いを外す

3月、桜など枝もの主体のオンラインレッスンブーケ

K:年に一度はブラッシュアップにパリへ行かれていたと思うのですが、行けない今、パリのエスプリを補う何か、やっていることなどはありますか?

S:今、そのために特にやってることはないです。すごく感覚で生きている人間なので、例えばYouTubeでパリの街並みを見たとしても正直なにもそこからは感じないし得られないんですよ。その場にいないと、その場のことは感じられない。だから無理にパリっぽいことはしてないです。逆に、日本の美しいところ、良きところを愉しんでます。そうすると、私の中にあるパリの感性、エスプリとかがちゃんときれいにふっと出てきてくれるんです。だからそういう意味でも、日本の花、日本の固有種に興味がある。最近の興味は植物学なんです。根っこの付いた植物のことを、仕事に活かすというよりは趣味として勉強してみたい。例えば、桜もソメイヨシノって作られた品種で山桜が日本の固有種なんですよね。山桜は先に葉っぱが出るってことを知って。桜ってまず花、それから葉っぱと思っていたから、知った時にビビビ!ってきて、もっと植物のことを知りたいと思った。私、全然知らんやんって思って。

パリに行けないからと焦ってパリっぽい何かを求めるのではなく、逆に今いる日本のことを知りたいという幸恵さん。当たり前のように身を置いていたパリから少し離れたことで、新しく見えてきたこともあるようです。

S:パリに行かないと、パリスタイルっていう囲いが小さくなってしまったり高い塀になってしまって、超えられないし戻れない、みたいな感覚に陥ってしまうんです。ちっちゃくなる感覚。でもパリに行くとその囲いがバーン!となくなってしまって、幸恵先生としても個人としてもいろんなしがらみとか考えてたことがなくなるんです。それで囲いがなくなった状態で帰ってくると、花合わせがまず全然違うんです。でも半年くらいたつと、囲いができてきたな、って自分でも気が付き始める。花合わせも、これだけやとあかんかな、ちょっともう一つ足そうかなとかごちゃごちゃし始めるんです。

K:いろいろ考え始めるってことですか?

S:いろいろ考え始めるし、自分でパリスタイルっていう囲いを作り始めて固くしてしまってる。ほんとはきれいと思っているのに排除してしまったりとか。でも今はパリに行けないじゃないですか。だから、その囲いを自分で取っ払ってみようかな、ってやってみたらちょっとできたんですよ。今日のアキレアなんかがそういうことで、パリスタイルって囲いの外にある花、日本固有の花、日本に昔からある花なんかが最近きれいやなと思うんですよ。それは囲いを取っ払ってるから、素直にきれいやなって思うし素直に手に取れるし、手に取ろうと思ってるんです。だから意識していることがあるとすれば、最近は素直にきれいと思った花がパリっぽいかとか、じゃうじゃ考えないで最初にきれいと思った自分の心と感性を大事にしたいということ。それで今の気分は昔からある花、ちょっと野暮ったさがあって、なごむ感じ。

K:確かに、可愛いな~と思っても、これはパリスタイル的にはどうかな~って考えてしまう自分がいます。

S:そうでしょう?そうすると、パリスタイルって何よって話になる。由美さんも進化してるから私もそれを楽しめるようにと思ってますが、それはたぶん、自分のスタイルがちゃんとあるから楽しめる。基本はこれだけど、ちょっと違う道に行ってみようってことができる。前はそれができなくて、戻ってこれないかもとか、どう思われるか気になったり。やったことあって想像つく花合わせだと安心だし間違いがないけど、そうじゃない時があってもいいし、もしうまくいかなくてもそれはそれ。ちょっとおもしろかったな、あれは変やったな~笑みたいなのもいいと思う。

K:そうやって思えるようになったのは最近ですか?

S:もうめっちゃ最近です。去年の春、コロナで自粛してた頃から少しずつ。きっかけは、自宅に飾る用の花送りをし始めたことかな。それまではブーケにできるかという視点でしか花を選んでなかったけど、花送りはそれぞれ花瓶に飾って下さいというものだから、花合わせの必要がなかったんですよ。そこから見方が変わって、あ、これも可愛いやん、って思えたり。それと、書道を本格的にやり始めて、そうすると日本画にも興味が出て、植物が描いてあると、あ、この花こんな昔からあるんやとか。そこからさっきも話した植物学とか、どんなふうに生えてるか自然の中に行って実際見てみたいとか。そうすると市場での過ごし方も変わって、昔からの生徒さんにめずらしい花合わせってびっくりされたり。上手くできるとは限らないですよ、今日みたいに意思疎通できるまでに時間がかかることも。命あるものに触れるには心なくしては絶対にうまくいかないし、今は初めましての人をお迎えするのが楽しい感じ。でも自分でこれは私らしくないかも、パリスタイルらしくないかもって思っていたらそれは表に出てしまうと思う。だから、私がちゃんと楽しんでたらみんなにも楽しんでもらえる。それに日本に前からある花、たくさん流通してる花を改めて可愛いと思えたら、魅力再発見やし花業界全体にもいいことやと思います。

そうして、今興味がある花として幸恵さんがあげたのは、菊でした!これまではパリスタイルの対極にあると思っていたような、昔から日本にある花。でも確かに生産者さんの努力でたくさんの品種が生まれてどんどん美しくなっていて、うまく使ったらとても素敵なブーケになりそう。これからの幸恵さんの花選び、ますます目が離せません!

ドライになり、またドラマティックな表情に

S:コロナ禍のいろんな事情でなかなかレッスンに来てもらいにくい状況ですが、それでも、これだけはやりたい、続けたいって思ってもらえる教室でありたいです。ディプロマレッスンが休講になり、空いた枠で何かレッスンの要望ありますか~って募ったらいろんなアイデアが出てきて。でも共通してるのが私の経験とかそれに基づいた基本的なことを教えてほしいってことなんです。幸恵先生として教えられることも、私の中では明確になってきました。新しいことも身軽にやってみたいと思ってます。パリスタイルも、きれいならいいやん、ってシンプルに。花合わせも、パリっぽいかとか気にしすぎるともったいない。

子供の頃から、植物の声が聞こえてたと思うと話す幸恵さん。それはもしかしたら空想から生まれたものかもしれませんが、目の前の花や草木と目を合わせようとする姿勢、心を寄せる優しさがあったから出来たことなんだと思います。そこから育まれた感性をフルに活かし、植物を含む自然と対話することが、幸恵さん独自のパリスタイルを生みました。そして幸恵さんのセンスで、パリと日本がうまく溶け合いながら進化を続けています。理想はパリに居ることだとおっしゃっていましたが、私としてはぜひ日本で、幸恵さんのパリスタイルのこれからを見ていたいな~なんて思うのです。本当に勝手なお願いですけれど笑、きっと多くの生徒共通の願いではないでしょうか?

幸恵さんが由美さんをリスペクトしながら独自の道を行くように、私たちもまた、それぞれの道を胸を張って進むためのヒントを沢山頂いたインタビューでした。幸恵さん、どうもありがとうございました!

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